新年が来た。
社員は結局、仕事始めの日に全員揃った。
最後の日、Bさんは社長と話合いをしていた。 Tさんは、次の日、謝りに行って今後の仕事のやり方を改めると約束したそうだ。
社長が新年の挨拶をする。
「去年あのような話をしましたが、このように全員あつまりました。 しかし私が年末にいったことをどうか忘れないように」
皆、何事もなかったかのように仕事をする。
ある日、社員だけで集まる機会があった。社長は海外出張中。
そのとき私はさらにたくさんの事実を知ることになった。
「社長、前にもあったんだって?会社やめるって」
「そうそう、けっこういろいろできる人が辞めて。社長、気に入ってたんだよ。それでショック受けて、
朝礼で、『俺はもう、会社を辞める…』(笑)」
「子どもと同じなんだよ。自分が威張っても、もう効き目ない、だれも 言うこときかないからダダこねてるだけなんだ」
「Mさんのときも、辛かったよ、俺」
「酷いよね」
「あの人、いままでたくさんの人の人生めちゃめちゃにしてるよ。 それでも何とも思わないんだもの」
「いままで一番だったの、あれ、Qさんの時だよね。」
「何年前だっけ。ひどかったよね、朝来たらQさんの机なくなってんの」
社長はよく休日に社内のレイアウト変更をする。
「で、『お前の席は今日からここだ』って、物置にQさん入れられて。」
「ただのいじめだよ、いじめ」
そこは機材などを置く、幅1メートルもないスペースだった。 電気も暗く、他の人とも隔離されている。それでもQさんは耐えたが、結局クビになったという。
「女の子は事務処理とかやらされるんだよね。そうするとクビが近い」
「そういうことやってるから、業界の嫌われ物になるんだよね」
「そうそう!俺と仕事はしたいけど、あの社長のいる会社だから仕事したくないって、 ××社さんとか言われるとさ…もらえる仕事も貰えないんだよ」
「仕事する会社によって全然態度も金額も違うの、やめて欲しいよ。気に入らないところだと、『こんなところの仕事するな』とか言うしさ」
私は、デザイン関係の知人達の反応を思い出した。 「E社!?」という驚きと困惑の表情は、そういう意味だったのだ。
業界の嫌われ物というのに、なぜE社に仕事が来るのか。
社長は顔が広く、地元の重要人物と仲がよい。 名の知れた地元大会社の会長と気軽に口をきける仲だという。
「会長を『お前』なんて呼んでいるんだよ」と、話してくれたのは、これもまた有名な大学教授である。
もっとも、その大会社の会長もワンマンなのだろう、その会社の労働組合が 『会長○○は不当解雇を撤回せよ!』なんてビラを撒いているのを駅前で見た。
「勝手すぎるよ。だいたいさ、業績が悪くてボーナス無しなんて言うなら、 なんで自分は海外出張なわけ?俺達に一言も言わないで。なにしに行ってるのか誰も知らないんだもの」
「しかも、年に何回行ってるの?あの人。」
「普通、業績悪化したなら考えるよ。機材とか、機能使い切れないくらい 高いものそろえてさ。」
「それで仕事の効率たいして上がるわけじゃないのに。だったら古い機材でいいから、 ボーナス欲しいよ」
次々に明らかになる事実。聞けば聞くほど、私の気持ちは辞めたい方向へ向かう。
私は久しぶりにデザイン関係の知人達に会った。
「どう?仕事は」
「…もう辞めるよ」
「ほらみろ、そうなるの最初から分かってたんだよ!」
「知ってたんですね」
「だって、言えないよ。せっかく東京まで行って勉強して会社辞めて、入ったところが あんなところだなんて…でも、すぐわかることだと思ったんだ」
私はため息をつくしかなかった。決める前に、まずはP社のYさんに相談してみよう。
なにか、アドバイスをいただけるかもしれない…
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