年末の出来事のとき、私は気が動転していたとはいえ、ただ「助けて!」という気持ちで P社のYさんを呼び出そうとしていた。今思うと、超多忙なYさんにそんなことで時間を割いていただいたのは
本当に申し訳ないと思っている。
私は、P社のYさんとある居酒屋にいた。
だが内心、私は困っていた。どこまでE社の状態を説明しようか。P社とE社は取引のある間柄である。 自分が言うことは、只の社長の悪口になってしまうのではないか。しかし、
Yさんの紹介してもらってE社に来た私が、ただ辞めたい、というのは申し訳ないし、理由も説明しなければならない。 そういう葛藤の中、一応、社長の只の悪口になってしまうのだけは気をつけよう、と思った。
「辞めたい…ということでしたね」
Yさんは慎重に言葉を選んで話す。
「ちょっと驚きました。人生にはいろいろな選択肢がありますから、それも一つの道だと思いますよ」
「…」
「お仕事はどういう内容だったんですか?ご希望していたような、仕事ができなかったとか」
「どうしても技術がないので少なかったですが、希望していた仕事もやりました。やはり 元システム系の仕事をしていたんで、ネットワーク周りやパソコンのトラブル対応なんかも…
もしかしたらそっちの方が多かったかもしれないです」
「なるほど…その辺が、辞めたくなったのにつながったんですか」
「いえ、そういうわけじゃないんです…」
いったい、どこから話そうか…
私は、年末の出来事を話した。
「そういうことがあったんですか」
Yさんは驚いた表情だったが、こうコメントした。
「でもね、会社経営者として、そういう方法をとる場合もあると、聞いたことがあります。 本当に苦しくって、どうにもできないから、会社を畳んでしまう。
でもそのあと、一番信用している人たちだけこっそり連絡を取って、新しい会社として 続けていく、とね。私だってそういう状況なら、やってしまうかもしれません」
「そうなんですか…よくある話なんでしょうか」
「よく、はないですが。それだけ、会社が厳しい状況というのは、このご時世ですからね。ありうることでしょう」
「でも、…会社が危機だと言ったその後、うちの社長は海外行ってるんですよ!」
話しながら、手が震えた。結局かなりのことをしゃべってしまった。
社員がすぐクビになってしまうこと、 過去にいじめのようなことがあったということ、デザイン関係の知人の話、今回の出来事で社員たちの多数は
辞めることを検討しているということ…
ただの悪口にならないよう、注意はしていたものの、つい激しい 口調になってしまうことは否めなかった。
話しながら、私はさらに決意が固まっていくのを実感した。
Yさんはさすがに冷静であった。後で思うと、 私をなだめたり、同意したりしながら、私が話していくうちにどうするべきか自分で考えるよう、うまく誘導してくださっていた。
「そうですか。よくわかりました。でも、辞めたらどうするおつもりで?」
「また振り出しにもどっただけです。SOHOとかの道も探します。焦ってまた失敗したくはないので、
貯金の続く間、ゆっくりと。」
「そうですね。今後は、SOHOが注目すべき労働力だと私は考えているんですよ。せっかくスキルのある
女性が結婚などで仕事をやめてしまって、育児で働く時間もとれない。そういう方々を支援していきたいですね。 ぜひ、やってください。応援します」
そのあとは、Yさんとは仕事と関係のない色々な話もして、またとても楽しくて、 すっかり夜遅くまで話し込んでしまった。
私は年末からずっと鬱々とした気分だったのが、久しぶりに晴れた気がした。
Yさんには本当にご迷惑だったろうと思うが、一人で抱え込んで考えるより、人に話す方が ずっといい。
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