転職失敗記その22

またも逆鱗に触れる

s協会、という組織がある。 E社を含む、Z市にある十数社の集まりだ。
s協会ではメーリングリストを運営して意見交換や会議の 予定決めに使っていて、私も入っていた。
私は間もなく会社を辞めるので、 s協会の担当のWさんに「私をメーリングリストから削除しておいて ください」と、メールで頼んだ。 「わかりました」と返事がきたものの、いつまで経っても 削除されない。

私の辞めた後に行われるプロジェクトのことで、メーリングリストは 盛り上がっていた。
多忙なWさんのことだから、時間がないのだろう。でも、いつまでも関係ない メールを読みつづけるのも、無駄だ。

メーリングリストを使用したことがある人なら、ご存知の筈。
新しくメーリングリストに入りたいときは、登録用のアドレスに、 subscribeとか、特別のコマンドを書いたメールを送る。 その後確認用のメールを更に送る場合もあるが、とにかく メールだけで登録され、その後自動でメーリングリストの 使い方を書いた説明メールが送られて来る。
説明メールにはメーリングリストからの脱退の方法もはっきり書いてある。
S協会のメーリングリストも同じシステムだが、誰でも加入できる まったくオープンなメーリングリストというわけではないので、 S協会のWさんが登録/脱退の窓口になっていた。
でもやることは一緒である。

前もって脱退の意志は伝えてあるので、 私はコマンドメールを送って脱退処理をした。
S協会のWさんにも自分で作業をしたことを伝えた。
「つい後回しにしてしまっていました。すみません」 と、返事が来た。
ところがそのことが、社長は気に入らなかったらしい。


退社まで2週間くらい、あともうすこし、 という頃。 私は社長室に呼び出された。
「昨日、S協会のWさんがね。『○○さん(私)、辞めるんだって?』って いうんだ。俺はびっくりしたよ。メーリングリストから削除したそうだね。
なんでそういう勝手なことをする?

えっ?今回は私は、何も落度がないはずだ。目を丸くして、私はWさんとの やりとりをつたえた。忙しいだろうから、自分でやっただけだ、と。
「だからって、勝手にやっていいものじゃないだろう。 非常識なんじゃないか?」
「だから、Wさんに事前に話したし、削除したあともメール だしましたけど」
「そういうもんじゃないだろう。S協会のWさんは、いい気はしなかった んじゃないか」
首をかしげる私をにらみつけて、社長は続ける。
「あんたね。インターネットについてのマニュアルにいろいろ 書いているね。『私は知りません』とか、かなりきつい口調で書いているけど、 そういうこと言うんなら、あんたもマナーを守るべきなんじゃないか」
マニュアルというのは、私が書いた社内ネットワークの マニュアルのことで、ネチケットやメールのマナーとか、その辺について 世間で言われていることを書いた部分である。
Outlookの設定が間違っていて、(つまりこのマニュアルを読まずに) システム管理者にクレームをつけられても私は知りません、 という一文があった。前にも書いたとおりOutlookが設定により変なメールを送るのでよく尋ねられ、ちょっとうんざりしていたからだ。

でも、一体何がマナーに反しているんだ?
メーリングリストの登録、削除、どこでも日常茶飯事に行われている ことじゃないの?
「こんなことをね、あなたにね。インターネットに詳しいシステム管理者様に 言うのはおこがましいかもしれないけどね。システム管理者様には。」
システム管理者「様」だって…

お得意の、超厭味な言い回しが出た。
「Wさんが忙しくて作業をしないまま、私が退社してしまった場合、 もう私のアドレスは無いわけですから、 S協会のメーリングリストの管理者にエラーがおくられたりして、 管理者に迷惑をかけると思ったんです。 実際、年度末なんかに、多くのメーリングリストで起きている ことです。なにが…問題なんですか?」
「…私はWさんにはあんたが辞めることは言ってなかったよ。 ひとことも。なのに、あっちから言われた。 私は、顔に泥をぬられたよ」
「…そうなんですか?」
「ええ。顔に泥をぬられました」

あっ、そういう意味だったのか。社長の知らない間に、辞めると いうことがWさんに知れてしまったのが気に入らなかったのか。
だが、私は前の会社の時、同じ頃…退社3週間程前には、 もう辞めることをオープンにしていた。みんなそうだったからだ。 だれも、泥をぬられたなんて怒らない。
それに、意味もなくWさんに言ったわけじゃない。いま説明したとおり、 メーリングリストの運営上必要があるから、知らせたまでだ。

まったく、最後の最後で、こんなことが社長の逆鱗に触れようとは…。

<続く>

前へ indexへ 次へ