<前回の続き>
社長の口からでなく、私から直接私が退社すると知らせたことが、社長の 怒りの元だとわかり、私は一応謝った。
だがそれでも、社長はまだ、メーリングリストの方にこだわっている。
しばらく話して、私は気づいた。 どうやら、社長は、私が「ハッカー」(誤用なのは知っているが、一般に使われている意味で) のような行為をして、本来アクセスできないメールの操作を、なにか特殊な手段で
やって、配送を止めたのだと思ったらしい。
それなら、社長が「非常識」と繰り返すのも納得がいく。
しかし、ここでそれを詳しく説明したところで… 面倒だし、社長のプライドも傷ついて、私をさらに気に入らなく思うことだろう。
もうすぐ辞めるんだから、おとなしく従っておこう。 私はメーリングリストの件も謝罪し、その場は収まった。
さて、私は引き継ぎに専念していた。 私の後任でネットワーク管理者になるUさんが、幸い知識もあり、 ネットワークにも興味を持ってくれたので引き継ぎ自体は
うまく進んだ。 しかし、Uさんも他に仕事をかかえており、なかなか時間がとれない。
それでも、私が辞める日まで、少しずつ進めればなんとかなるという 状況だった。
メーリングリストの件で怒られてから数日後。 私はまたも社長に呼び出されたのである。
もう、うんざり、来るならこい、どうにでもなれ、という気持ちで 社長室に行った。
「引き継ぎの方は、順調か?」
おや、怒っていないようだ。ちょっとほっとする。
「はい、ですが、Uさんの時間がなかなかとれないです。毎日少しずつ 時間をとってもらって、なんとか月末までには終わると思います」
「まだ、かかるのか?」
「ええ、これから、サーバのもっとも重要な部分にはいりますので」
社長は、カレンダーを見つめ、言った。
「あんた、他に仕事がないなら、もう、来なくていいんじゃないか」
「!!」
正直にいうと、その瞬間、ラッキーと思った。 もう社長の顔をみなくていいんだ!!
あわてて思い直す。Uさんへの引き継ぎは、まだ終わっていないのに。
すると社長は、Uさんも呼んだ。
「U君、時間がとれないのか?」
Uさんは困った顔で、
「××の仕事が月末までなので、これはどうしても延ばせないんです…」
「○○さん(私)、じゃぁ、引き継ぎの内容を本当に重要なものだけに したらどうだ?」
「はぁ…」
「U君が勉強したところで、限界はある。でも外には専門の会社があるわけだから、 なにかあったら、お金を払って来てもらえばいいんだ。そうだろう?
専門的な知識は引き継ぎする必要はないと、俺は思う。 どうだ?何日ぐらいかかる?」
何故社長は、こんなにも急がせるのだろうか。
「一日中つかったとして、3日ですね」
「じゃぁ、U君、なんとか3日だけあけられない?」
「そうですね…どうしてもというなら、なんとかなりますよ」
「じゃぁ、あとは二人で調整して。そして、あんたは、他の日は会社に来なくていい」
「では、その間の給料は…」
「もちろん、辞める日まで出しますよ」
忙しいUさんに無理をさせてまで、引き継ぎの時間を縮めろという。私に辞める日まで給料は出すという。
そう、社長は、私に、もう会社にくるなと言いたかったのだ。「クビ」と同じ意味だろう。
私が退社を決めていなければ、私はクビになっていた、ということなんだ。
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