すでにこれまで学んできたドラムに関する事項をまとめてみましょう。
以下でただ単に「ドラム」という場合は、シンバルを含めたドラムセットのことを指しています。
「基礎知識編」の「ドラム譜の読み方」や「拍子について」では触れなかった部分や、以前の解説より詳しく書いている部分もありますが、ついでに覚えてください。
まず、ドラムには基本的に音程がありません。
音程があるのはタムタムやティンパニーなど、ごく限られた太鼓だけです。
したがって、「メロディアスなドラム」というものは存在しません(注1)。
ドラムのフレーズは、音の長さおよび太鼓の種類だけで作られることになります。
ドラムの中でも最も低い音を出すのがバスドラムです。
バスドラムはいわば小学校の音楽会でも使われる大太鼓ですが、音があまり響かないというところが大太鼓と異なります。
音符では図1の位置で表され、サンプル1のような音がします。
通常はあまり連続で叩かれることはなく、ある程度の間隔を保って定期的に叩かれます(注2)。
具体的には、4分の4拍子で1番目と3番目の4分音符のときに叩く、などです。
ドラムの中で最も目立つ音をしているのがスネアドラムです。
スネアドラムはいわゆる小太鼓です。使い方も似たようなものです。
音符では図2の位置で表され、サンプル2のような音がします。
バスドラムと同様、あまり連続で叩かれることはありません。
非常に大きな音がしますので、間隔を広めにとって叩くとよいでしょう。
具体的には、4分の4拍子で2番めと3番めの4分音符のときに叩く、などです。
ドラムの中で音程を持つ珍しい太鼓がタムタムです。
タムタムには音の高い順にスモールタム、ミドルタム、ラージタム、フロアタムという種類があります。
音符では高い方から順に図3のような位置で表され、サンプル3のような音がします。
通常のフレーズではあまり使われることはなく、4小節あるいは8小節などのひと区切りの最後に使われます(注3)。
なお、このひと区切りの最後をフィル・インと呼びます。
具体的にはサンプル4のような使い方です。
ドラムには太鼓ばかりでなく金属製の皿(シンバル)を叩く場合もあります。
最も多用されるのがハイハットです。
これは二枚のシンバルを向かい合わせたような形をしており、くっついているときと離れているときで音が変ります。
このくっつけたり離したりをするときに足でペダルを踏むのですが、離れている状態からくっついたときにも音が鳴ります。
くっついている状態をクローズ・ハイハットといい、図4の音符で表されます。
実際にはサンプル5のような音がします。
離れている状態をオープン・ハイハットといい、図5の音符で表されます。
実際にはサンプル6のような音がします。
ペダルを踏んで鳴らす場合をペダル・ハイハットといい、図6の音符で表されます。
実際にはサンプル7のような音がします。
なお、普通「ハイハット」とだけいうと「クローズ・ハイハット」のことを指します。
楽譜上でも「+」や「○」のついていないハイハットはクローズ・ハイハットとみなされます。
以降の楽譜ではクローズ・ハイハットを表現するのにいちいち「+」をつけないので、ご了承ください。
オープン・ハイハットを叩き続けると非常にうるさく、ペダル・ハイハットを踏み続けるのは疲れるため、通常はクローズ・ハイハットを主に使います。
オープン・ハイハットはクローズ・ハイハットの合間に、ペダル・ハイハットは両手がふさがっているときに使うとよいでしょう。
このシンバルは曲のビートを決定するのに重要な役割を果たしており、8ビートであれば1小節に8回、16ビートであれば1小節に16回叩くのがきわめて一般的です(注4)。
ハイハットとは別に、通常ドラムにはあとふたつシンバルがついています。
そのうち、非常に大きな音がするほうをクラッシュ・シンバルといいます。
音符では図7の位置で表され、サンプル8のような音がします。
オープン・ハイハット以上にうるさいので、通常のフレーズ内では使われることはまずありません。
タムタムを鳴らすフィル・インが終わった直後の小節の最初に叩くのが一般的でしょう。
クラッシュ・シンバルよりも控えめな音がするほうをライド・シンバルといいます。
音符では図8の位置で表され、サンプル9のような音がします。
使い方としてはオープン・ハイハットに近いものがありますが、オープン・ハイハットの「チー」という音に対して「カー」という音がしますので、そのときどきで使い分けてください。
他に変ったドラムとして、牛が首につけているベル(カウベル)や、民族音楽で使われるボンゴやコンガなどがありますが、あまり普通には使われないため、ここでは割愛します。
機会があったら一度本物の使い方を見聞きしておいてください。
クローズ・ハイハットのところでも触れましたが、ドラムの基本的な概念として「ビート」と呼ばれるものがあります。
多くの書籍では「ノリ」という非常にあいまいな言葉で説明されていますが、ここではもっとデジタルに「1小節内でクローズ・ハイハットを叩く回数」と説明しておきましょう。
したがって、図9(サンプル10)は8ビート、図10(サンプル11)は16ビートということになります。
他にも4ビートや2ビートなどのビートもありますが、最近はこのふたつのビートしか使いません(注5)。
なお、「1小節内でクローズ・ハイハットを叩く回数」というのは厳密ではありません。
たとえば図11(サンプル12)のように途中でオープン・ハイハットが入ると、クローズ・ハイハットの数は当然減ります。
このような場合は、オープン・ハイハットのところがクローズ・ハイハットだったらどうなっていたか、ということを考え、それが8ビートなのか16ビートなのかを割り出してください。
普通8ビートではちゃんとクローズ・ハイハットを8回叩くので、あまり迷うことはないでしょう。
では、次の節から実際に使えるドラムフレーズを紹介していきます。
注1……たまにアンジーのようにタムタムを使いまくるバンドがありますが、他にはめったにないようなので、このように書いておきます。
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注2……ただし、16ビートのリズムにおいてはその限りではありません。むしろ、定期的にバスドラムの入るフレーズは非常に低レベルだと言えるでしょう。定期的にバスドラムを入れてよいのは8ビートや3拍子の曲など、あまり忙しくないものです。
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注3……ごくまれにですが、クローズ・ハイハットの代わりにフロア・タムを叩くバンドを見かけます。非常に分厚いドラムフレーズになりますが、全体に音がはっきりしなくなりますので、できればやめておいたほうがいいでしょう。
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注4……つまりハイハットが8分音符で刻まれていれば8ビート、16分音符なら16ビートということです。もしどちらかよくわからないようでしたら、スネアドラムの数を数えてみてください。ハイハット3回目の位置にスネアドラムが来ていたら8ビート、5回目の位置に来ていたら16ビートだと思ってもよいでしょう。
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注5……さらに言えば、16ビートしか使わないような気もします。ビートルズ以前は4ビートの曲が多く、それ以前は2ビートの曲が主流でした。時代が進み世界がせわしなくなるのと同時に、音楽の最小構成要素(ハイハットの連打)がどんどん細かくなっているのは、
なかなか興味深い現象といえるでしょう。
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