転職失敗記その19

パソコンも支配したがる社長

辞める辞めるという私に、
「社長が馬鹿でも、相手にしなけりゃいいじゃん」
と、いう友人もいた。が、E社の場合はそうもいかないのだ。
次に紹介するのは、このころ起きた出来事である。

あるサーバソフトのインストールだった。
(ちょっとこれから専門的な話が続くが、なるべく解説はするつもりなので 勘弁してほしい)
会社のネットワークは、WindowsNTがメインで、一台NT Serverが入っていた。 社内ネットワークの管理は私にまかされていたので、私なりにディスクの パーティション(区画)をわけ、ここにはプログラム、ここにはデータ、 ここには共有の資源…と、決めた。CGや編集のデータなどは非常に大きくなるため、 使う方も管理する方も分けておいた方が安心なのだ。それに、仕事に限らず、 プライベートでパソコンを使う人だって、そうする場合は多い。

使い分けのルールは、当然皆にメールで告知しておいたし、みんなルールを守って使ってくれた。 ただ一人を除いて…そう、社長だ。
社長だけは何度言っても、使い分けてくれなかった。プログラム用の領域に データを平気で大量に入れ、残り数十メガになってもしらんぷりだ。 データを消していいかどうか聞きたいときは出張でいない。何度、私は慌てたことか。
ついに、私はプログラム用のパーティションは管理者のパスワードがないと 書き込めないようにした。サーバのプログラムをインストールするのは 私だし、使うのにはなんら支障がないはずだ。
ところが。

ある朝(月曜日だった。また日曜日に会社に来ていたようだ)、社長がむっとして 私のところに来た。
「新しいソフトを買って来て、サーバに入れたかったのだが、パスワードが わからない」
それはそうだ。だが、次の言葉で私は固まった。
「だから、俺のパソコンからディスクを共有してインストールした。あとはみんなで使えるように設定しておいて。」

簡単に説明すると、 社長も含め、個人のWindowsパソコンから、サーバにある一部の領域は データ共有用として、パスワードなしでマウント (自分のパソコンのハードディスクであるかのように使える) できるようになっている。 そして当然そこは、プログラムをインストールする場所ではない。 みんなで共有するデータの置場である。
ところが社長は、サーバにインストールできないので、その共有部分に プログラムをいれてしまえば、サーバにインストールすることと 同じことになる、と解釈したらしいのだ。
インストール先をその共有部分にしたとしても、実行に必要なファイルの一部は 社長のパソコンに入る。
うまく動くわけがない!
これがパソコンに詳しくない一般のユーザであるなら、無理もないだろう。
だが、社長は自作マニアを自称し、会社のパソコンを作り、しかも それを売っている人なのだ。コンピュータやインターネットに詳しいと 自称している人なのだ。それが…

私は、それはサーバにインストールしたことにはならないと、丁寧に 説明した。すると社長が声を荒げて言う。
どうして俺がインストールできないんだ。あんたがパスワードを設定しているから そうするしかなかった。何でパスワードを付けたんだ。前はなかったのに」
どうしてって、社長が変なことしないために決まっているだろう!
だいたい、パスワードがない状態で今までいたのがおかしいんだよ
社長の口ぶりは、まるで会社のパソコンはすべて自分の自由にできないと おかしいと言いたげだった。
社長…意を決して、私は、告げた。
「サーバは動かなくなると、会社全部に影響がでます。困るのはひとりだけじゃ ないんです。だから、ソフトを インストールしたり、削除したり、マシンを再起動したりできないよう、 パスワードを設定しているんですよ。今後、勝手にソフトをインストール しないでいただきたいんです。インストールする前に、このソフトは どれだけ容量をつかうかとか、動作するために何が必要だとか、 私が調査して、それから入れます。そのために私がシステム管理者として いるわけですから
私はWindowsを信用していない。何が起こるかわからないし、訳のわからない現象にたびたび悩まされてきた。だから、システムに変更を加えることにはナーバスにならざるをえなかったのだ。
社長は「わかった」と、一応は、言った。
その後私は、ソフトのアンインストールと再インストール、そしてクライアントパソコンからの設定という予定外の仕事に振り回された。社長はクライアント側の設定などは私にやらせる。だったらなおさら、私が最初からインストールしていないと把握できない部分もあるだろうに…
社長はインストールだけして、パソコンに詳しいつもりなのだ。 インストールだけなら、猿でもできるって。

とにかく私はこのとき、社長に向かって言いたいことを言えて、とてもすっきりした気分だった。だが、怖かったのも事実だ。
そのあたりからだ、社長の私に対する態度が 変わって来たのは。

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