カルシウムイオンの働き
細胞膜にあるタンパク質の働きで、膜の外がわにはプラスの電気がたまり、内がわにはマイナスの電気がたまっています(→膜電位の形成)。プラスとマイナスの電気は引き合います。このため、プラスの電気をおびたナトリウムイオンやカルシウムイオンは、いつも細胞膜の内がわにひっぱられています。神経の中を電気信号が伝わるには、この膜の内がわと外がわのあいだにたまった電気が必要です。
神経では信号を出す細胞がアセチルコリンという物質を放出して、神経細胞の間での信号のやり取りをおこないます。信号を受け取る側の神経細胞には、細胞膜の上にタンパク質が浮かんでいます。このタンパク質は、アセチルコリンがくっつくと形が変わります。そして、入りたがっていたプラスのイオンを細胞の中に通してしまいます。このために膜にたまっていた電気が消えてしまいます。するとその近くにあった別のタンパク質が電気の変化を感じて形を変え、またプラスのイオンを細胞の中に通してしまいます。こうして、つぎからつぎへと膜の間の電気の変化が伝わっていきます。膜の上を電気の変化が伝わる速さは動物の種類によって変わりますが、最高で毎秒百m以上にも達するといわれています。電気信号が神経細胞の先まで伝わると、そこからまた次の細胞へとアセチルコリンが放出されます。
細胞膜には、細胞の中からカルシウムをいつもかい出すタンパクもあります。このタンパク質の働きで、細胞のカルシウムイオンの濃度はいつも低く保たれています。カルシウムイオンは、ナトリウムイオンと同じプラスイオンです。このため、細胞膜の間にたまっていた電気がなくなると、形が変わったタンパク質の中を通って、細胞の中に流れ込みます。
このときに移動するイオンの数はたいへんにわずかです。ナトリウムイオンやカリウムイオンの細胞の中での濃度はそれほどに低くないため、イオンが細胞の中に入ってきてもほとんど変わりません。一方、カルシウムイオンの濃度は非常に低く保たれています。細胞膜を通してイオンが少し入ってきただけで、細胞内のカルシウムイオンの濃度は大きく変化するのです。
細胞の中にあるタンパク質には、カルシウムがくっつくと形が変わったりして、性質が変化するものがあります。このようなタンパク質は、神経細胞の中で生じた電気的な変化をタンパク質の変化に結びつけ、さまざまな反応を進めたり、押さえたりしているのです。
神経細胞の他にも、カルシウムイオンをつかった信号のやりとりがあります。今度は別のタンパク質が細胞膜の上ではたらきます。生きものが作る物質の中には、信号となる特別なものがあります。この物質が細胞の外にやってくると、それがこのタンパク質にくっついて形が変化し、カルシウムイオンを細胞の中に流し込むようになります。こうして細胞の中のカルシウムイオンの濃度を変化させ、さらにタンパク質の性質を変えてしまいます。細胞の中のさまざまな反応はタンパク質によっておこなわれているので、カルシウムイオンを使って反応自体を調節することができるのです。
このようにカルシウムイオンは、私たちの細胞が生きていくうえでおこなっている数多くの反応の調節に欠かせないものなのです。