酸素の発生
太陽からの光を利用して
電子をあまりほしくない有機物 ←−(電子)−− 電子をもっとほしい有機物
という電子の流れを作りだすことに成功した生命のなかから、ある日、有機物のかわりに水から電子をとりだすものが現れました。水は有機物よりもずっと電子と仲が良く、なかなか電子を渡そうとしません。そこでかれらは、太陽からの光を利用する仕組みを2段階に分け、もっと強力にしたのです。水から電子を引きはがすことができるようになった生命は、
電子をあまりほしくない有機物 ←−(電子)−− 水の分子
という電子の流れをつくることで、水から直接電子をとりだし、もっと効率よく有機物を作りだすことができるようになったのです。水の分子は水素と酸素の原子からできています。そして、水の分子から電子をはがすと、いっしょに水素原子もはずれ、酸素ができるのです。こうしてはじめて酸素を生みだすようになった生命は、「ラン藻(らんそう)」と呼ばれています。
しかし、これは思っていた以上に大事件でした。酸素はわたしたちにとっては、なくてはならないものです。でも、当時の多くの生きものにとっては猛毒でした。なぜなら、酸素は「ものすごく電子を欲しがる分子」だからです。酸素はいつも電子を欲しがっていて、放っておくと勝手に有機物から電子をとっていってしまいます。今まで酸素のない生活になれていた生きものたちは、自分の体をつくる有機物が、酸素によって電子をうばわれ、こわされてしまいます。たまったものではありません。
こうして、多くの生きものたちは、酸素が現れたことで死んでしまいました。また、生き残ったものも、酸素のない深い海などの住みにくい所へかくれなければならなくなりました。
ラン藻は、酸素が有機物をこわすのをふせぐ仕組みをちゃんと持っていたので、問題なくふえ続けることができました。逆に酸素は、ほかの生物たちを殺したり、追いやったりする武器になったのです。酸素という強力な武器をもったラン藻は、競争相手のいない地球上で、どんどんどんどんふえ続けました。そうしたラン藻の化石をいまでも見ることができます。それがストロマトライトというものです。
当時の海には、たくさんの鉄分が含まれていました。酸素がないところでは、鉄はたくさん水に溶けることができるのです。でも、ラン藻がどんどん酸素を出すことで、水にとけていた鉄は、さびになって、海底に沈んでいきました。鉄は酸素と水があると、さびてしまい、水に溶けていることができなくなるのです。こうして、ものすごい量の鉄がさびになって、海底に沈みました。そうしてできた地層を今でも見ることができます。それが、縞状鉄鉱層(しまじょうてっこうそう)です。