第八話(5月27日放送)

星野明日香
〜Dreams will never die〜

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko / Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
岡本英樹
岡本英樹
堀井久美

ストーリー

第八話 星野明日香 〜Dreams will never die〜

夜。横浜、元町。
「……どう考えても無理だな」
「そうでもないだろう」
「だってあれはもう、生物学的に、違う種類のものなんだからな」
「マイフェアレディーコンテストのプロデューサーともあろう者が、そんなこと言っていいのか?」
どうやら業界の関係の人物らしい。
「だからこそ言えるんだ。近頃の女子高生は乱れているなんて言うが、そうじゃない。もともと、あんな生き物なのさ」
「オレの尊敬するプロデューサーがこんなことを言ってたな。誰でも本当はレディーなんだ。磨きをかければ原石はダイヤになる。信じたい言葉じゃないか」
「夢は……死んだよ」

バー。
「若かったねぇ、オレも」
プロデューサーが言う。
「ふん、勝手に殺してくれるなよ、夢をさ」
もう一人の男が言う。
環境と訓練さえ整えれば、今の女子高生だってレディーになれる、と男は言った。

またある日。
男がファミレスに入る。「ボナサン」。
「よう、多崎、こっちだ」
あのプロデューサーが声をかけている。待ち合わせだったようだ。
田崎はそのテーブルの方へ行き、対面に座った。
「ロイヤルミルクティーがまあいける」
「そうか。すみませーん」
ウェイトレスに声をかける。が、全てバイト女子高生のようで、固まってペチャクチャおしゃべりをしている。
その中に、明日香の姿もあった。
「ちょっとすいませーん!」
少々怒り気味で田崎が声をかける。
ウェイトレス達はやっと気付いたのか、明日香を行かせる。が、明日香は食器を持って戻ってきた他のウェイトレスにぶつかり、大変なことに。
ため息を付く田崎。
「も〜う……」
テーブルまで行き、立ち止まって何もしようとしない明日香。
「いいのかな?」
「え、あ、あ、ご注文はおきまりですか?」
「ロイヤルミルクティーを一つ」
「あ、ミルクティーですねっ」
「ロイヤル、ミルクティー」
「はいはいっ」
「ミルクティーとロイヤルミルクティーは別じゃないんですかぁ……?」
そう言ってメニューを明日香に見せる。
「え、あ〜っ! ホントだぁ〜! ……ねぇねぇ、キャンセルってどうすんのぉ?」
不謹慎にも、テーブルから離れ、他のウェイトレスに機械の操作方法を聞きに行く。
「……どうやったらああなるんだ?」
注文の確認もとらずに行ってしまった明日香を見送って言う田崎。
「撤回したくなっただろう」
「そんなことは無いぞ、あの子だって訓練をすればレディーになれる」
「じゃあ、懸けてみるか」
「ん?」
プロデューサーは、明日香のの環境を整えて訓練をして、ステキなレディーにし、一月後のマイフェアレディーコンテストに優勝させたら勝ちだ、と言う。
「なんだいきなり?」
もし勝つことが出来たら、前からほしがっていた伊万里焼きの皿をやる、と言う。
モノに吊られた田崎は、ついついOKしてしまうのだった――

またある日。
「名前は星野明日香。誕生日は6月21日。双子座のB型。身長153cm、スリーサイズは80、60、86。いずれも推定。学校の成績は252人中238位。常に赤点スレスレで、再考査再々考査の常連。性格は筋金入りのミーハー。私立精華高校の志望理由は、制服が人気ゲームのキャラクターに似ていたから。アルバイト先の選択理由も同様。話題のグッズは学校を休んででも初日にゲット。テストの日程は忘れても情報誌の発売日だけは忘れない」
何処から調べたのか(ホントだよ)、明日香についての情報が大量にまとめられている。
田崎はため息を付く。
「前言撤回するか? オレが交換条件を出す前に」
田崎は黙って、明日香についての報告書に目を通そうともせず、住所だけを取って席を立った。
「オレが勝ったらどうする?」
「心配するな、オレが勝つさ」
そう言って田崎はその部屋を出ていった。

「こいつはひょっとしたら化けるぞ……」
帰りの車を走らせながら、田崎は確信していた――

次の日の朝。
「行ってきまーす!」
明日香が家から飛び出し、階段を駆け下りる。
「……ん?」
階段の下には、田崎が待っていた。
「……星野明日香さん、だね?」
「なに、おじさん?」
「銀幕の天使になる気はないか?」
「え? ……銀幕って、何?」
そこで田崎はコケる。
「映画のことだよ。私はキミをスカウトに来たんだ」
そう言って田崎は明日香に名刺を渡す。田崎は超有名プロダクションの、やはりプロデューサーだった。
「えぇ〜? じゃあテレビとかにも出られて、いろんな芸能人とかにも会える、みたいな?」
「もちろん、アルバムを出したり、海外で写真集を撮ったりもできる」
「ゲロスゴいじゃないですかぁ〜!」
「え、あ、ゲロすごい?」
「あたし、やります! その銀幕の天使ってヤツ、マジチャレっちゃいます!」
「しかし、厳しいぞ……」
ミーハー禁止、休みもほとんどつぶれる、レッスンは辛い、などと、今時の女子高生ならばこれだけで諦めてしまうようなことを並べ立てる。まあ本当なのだから仕方ないが。
しかしそれでも明日香はオッケーオッケー、と諦める様子はない。やはり普通の女子高生とは違うようだった。
「えっと、じゃあ、明日からレッスン開始ですねっ! なにかあったらここにTELってくださいね!」
そう言って明日香は電話番号を渡し、また階段を駆け下り、学校へ急ぐのだった。
「あの皿のため、か……」

次の日。ビルの一室のようだ。
「いいかい、キミはすてきなレディーになるんだ」
「レディー?」
「想像してごらん、華やかなドレスに身を包み、社交界の男達がキミを求めてやまない。キミが歩けば誰もが振り返り、少女達はキミをあこがれの瞳で見つめる」
「でもぉ、レディーなんて言葉、あたしにはチョー似合わないって感じですけどぉ?」
そこで田崎はまたコケる。
「いいかい、まずはその言葉遣いだ。そうだな、キミの恋愛観を話してごらん、」
「えっとぉ、あたしはぁ、カレシがいなくてぇ、友達とかはぁ、もうビシバシデートとかしちゃってんのにぃ、ありとー寂しいよなぁとか思うんですけどぉ、いまんとこその他諸々でチョー楽しいしぃ、まいっかって感じです〜!」
田崎は真剣な表情。不満のようだ。
「あ……」
「まず、語尾をいちいち上げるのはやめよう。あたし、じゃなくてわたし。カレシというのはアクセントが違う。それから、とか、が多い。しかも無意味だからやめよう。など、がいい。しちゃって、まいっか、というのは、砕けすぎだ。してしまって、満足しています、と言いかえよう。」
真剣にメモを取る明日香。やはり他の女子高生とは違った何かを持っているらしかった。

言葉の練習は夜まで続いた。
「もうこんな時間か……。じゃ、最後の1回だ」
「はーい。えっと、私には今彼氏がいません。友達たち、じゃないや、友人達にはちゃんと彼氏がいて、あ、あれ、えと……デートなどしていてうらやましいけど、今の私は音楽鑑賞やなんかのたくさんの趣味があるから、十分満足ですっ! えへへ!」
「すばらしいっ。1日の成果にしては100点満点だ」
「ははは、あたし的には、チョー頑張っちゃいました!」
「ははは……明日からも、その調子でね」
「はーい! じゃ、田崎ちゃん、バイビーンッ!」
そう言って明日香はビルの階段を駆け下りていった。
明日香が居なくなったあと、田崎はタバコに火を付ける。
「なぁにがバイビンだよ……。タクっ!」
田崎は明日香の座っていた椅子を蹴っ飛ばすのだった。

―CM―

どこかのお寺だろうか。
田崎が目の前の女性に礼をする。
つられて明日香も。
「……本日は、日本舞踊の心をお教えします……」
「は、はぁ……」
「この畳のへりの上を、はみ出さずに向こうまで歩けますか?」
女性が言う。
「……これ、ですか?」
明日香は難なく、畳のへりの上をはみ出すことなく歩いてみせる。
得意そうな顔をしていると、
「……では、こちらへ」
そう言うと女性は立ち上がり、池の方まで田崎と明日香を案内した。
池には人の足、一つ分の幅があるか無いかという、とても細い橋がかかっていた。
「…ついてきて下さいね」
そう言って女性はその細い橋を歩き始め、池に落ちることなく向こうの岸までたどり着いた。
明日香も負けじとそれを行う。
……が、見事にバランスを崩し、池に落ちてしまう。
「うえぇん、びちょびちょぉ」
「あらあら不思議ですねぇ。さっきと同じ幅のところがどうして通れなかったのでしょう?」
「だってぇ、畳の時は落ちなかったから」
池では落ちると思っていたから落ちたのだ。
つまり落ちないと思えば落ちない、と女性は言った。
「……そっか。ねぇ、もう一回やってもいい?」
何度もチャレンジしては落ち、また諦めずにチャレンジしては落ちる。その繰り返し。
「やはり、なかなか難しいようですね」
田崎が言う。
「いいえ、あの方はもう成し遂げました」
不思議そうな顔で田崎が女性を見る。
「最も難しいのは、失敗を恐れず再び試みようとすること。そのものですから」
――そして。
ついに明日香は落ちることなく反対側の岸までたどり着いたのだった。
大喜びする明日香。
「……そうかもしれんな」
それを見て田崎はつぶやいた。

電話。田崎と話しているのは、マイフェアレディーコンテストのプロデューサー。
「よう、どうだい、調子は」
「うん、なかなか」
「そうか、なかなか、か」
「ああ」
「何が、ああ、だこいつめ」
「なんだ?」
「お前がなかなかという時は、昔から調子がいいときなんだ。お前がなかなかと言った子は、昔から大ヒットを跳ばしているじゃないか」
「そんなことないさ」
「声が明るいぞ。もうあの皿をもらった気だな」
「まあ、思ったよりは一生懸命だよ。それが救いだな」
「訓練の賜物か」
「どうだかな」
毎日訓練はつづく――

「ねぇ、田崎さん、ホントに水着を買って下さるんですか?」
昔とは段違いの丁寧な言葉遣い。とてつもない進歩のようだ。
「ああ、コンテストに必要だからね。それにこれは会社の名前で領収書が切れる」
「田崎さんったら」
明日香は試着室に入り、着替え始める。
着替えが終わり、水着姿の明日香が現れる。
「なんだか、恥ずかしいな……。どうですか?」
その姿を見て田崎は思わず眼をそらす。
「ああ、いいよ……よく似合ってる」
「じゃあ、コレに決めます」

留守電。しゃべっているのは田崎だった。
「……オレだ。彼女のことだが、いける気がしてきた。何年ぶりだろう。不思議な感じがしたんだ。下世話な話じゃなく、一人の男としていいと思った。……あの皿、覚悟しとけよ」
「小ぶりの湯飲みぐらいにしとけばよかったかな……。明日は仕上げのテストか」

次の日の夜。
車があるレストランの前で止まる。どうやらここでテスト、とやらを行うらしい。
田崎と、ドレスを着た明日香が車から出てきた。

席に着く二人。
「……ここまでは完璧だ。もう、大丈夫だね」
「はい。実は夕べ興奮して、全く眠れなかったんですけど、何とか、乗り切れそうです……」
うつらうつらし始める明日香。
「……明日香君?」
「あ、はいっ! 大丈夫です……」
と言いつつも、ちょうど目の前に運ばれてきたケーキに顔面から突っ伏してしまった。
「お……」
しかし明日香は動ぜず、手元のふきんで顔を拭くと、
「失礼、タオルをお願いできますか……?」
「かしこまりました」
「……やっぱり、失敗しちゃいました」
笑いながら田崎に言う。
「いや、合格だよ、明日香君。もう安心して、コンテストに送り出せる」
「フフ……」

電話の音。
「はい、星野です」
「いよいよ、明日だ」
「また眠れなかったら、どうしよう」
「温かいミルクを飲むといい」
「……なんだか、夢みたいです。一ヶ月前までは、電話がくると『明日香だぴょーん!』なんてやってたのに」
「それは本当のキミが目を覚ましたからさ。レディーのキミがね」
「田崎さんのおかげです。じゃあ、お休みなさい」
「お休み」

明日香は言われたとおり温かいミルクを飲み、ベッドに入る。
そしてラジオのスイッチを入れた。
「……如何お過ごしでしょうか。深夜の指定席、リクエストウィーク2日目の今夜は、思い出の映画音楽特集をお送りします……」
(これはミーハーじゃないからいいよね……)

次の日。
コンテスト当日。
「いよいよだな」
「ああ」
「彼女は?」
「もう、来るだろ」
「なぁ……、あの皿でなきゃ、駄目か?」
「だ、め、だ」

ピピピピピピピピ……ピピピピピピピピ……

駐車場の田崎の車から、携帯電話の音が鳴り響いた……。

10時45分。
「ちょっと遅いな……」
懐から携帯電話を取り出そうとする。……が、見つからない。
「……しまった!」

明日香の家に電話をかける。出ない。どこに行ってしまったのか。
田崎は思わず公衆電話を殴りつける。

そんなことをしている間にも、コンテストは始まってしまった。
(どうしたっていうんだ? 事故か? どうして来ないんだ!? キミは誰よりもステキなレディーになったのに。来ないなんてことがあるもんか。……明日香君、明日香君! 何処にいる!?)

そして、コンテストは終了、優勝トロフィーはは明日香ではない、他の女の子に手渡されてしまった――
コンテストが終わり、誰も居なくなった客席に、田崎が呆然と座っていた。

またある日、あの、ファミリーレストラン。
「田崎」
プロデューサーの呼ぶ声。田崎は席に向かい、また同じく対面に座った。
「よう、あの皿、助かったな」
「いや、ここに持ってきた」
「何故だ? あの子は来なかったんだぞ? 今時の女子高生は、やっぱり、今時の女子高生さ」
「違うな」
「ん?」
「あの日、彼女はステキなレディーだったんだ」
「え?」
「彼女を知っている人間には有名なエピソードがある。数年前、彼女はある映画に行く約束をした相手がいた。だが、彼女は体をこわし、約束を果たせなかった。そして相手の彼も再開することなく転校していった。その時の映画がリバイバルしていて、あの日が最終日だった。そして前夜、あるラジオでメッセージが流れたんだ。『あの時の約束をもう一度』という内容のな。…そして彼女は映画館へ行った。初回から最終回までずっと一人で座っていた少女の姿を、映画館の人間が見ている。ラジオのメッセージは別のカップルのものだったんだろう……」
「それでも、ずっと、信じて……」
「今時いるんだな、と思ったよ。そんな女の子が。……ステキなレディーじゃないか」
「いらっしゃいませ」
目の前に、明日香がたっていた。
「ごめんなさい。言い訳はしません。ここでお逢いできたのは、きっと神様がお詫びの機会を与えてくださったんだと思います」
「何回か君のオフィスにも行ったようだよ」
「もぬけの殻で狐につままれただろ。あれからすぐ異動になったんだ」
「また、戻ってきて下さい。私、今度は自分から田崎さんのいる世界に挑戦してみます」
「明日香君……、それは、チョーいいかもしれんな……」
「とてもいい、ですよ。フフフ……」
「じゃあ、待ってるよ」
「はいっ。じゃあ、オーダーお決まりになったらお呼び下さい」
そう言って明日香はその場を離れた。

その刹那。
食器の割れる音。
「きゃいぃ〜ん!!」
二人はため息をついた……。

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