第十話(6月17日放送)

永倉えみる
~果てしない物語~

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko/ Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
飯田幸子
吉村あきら
堀井久美
山本浩

ストーリー

――もう、何年こうしてこの辺りにいるのでしょうか。果てしない物語の一員になってしまったのですから、もうそれが運命であると心に決めて、ずっとずうっと生きています。
私ですか? まあ、それはおいおい分かることですから。あ、それより、……彼女です。

《来るよ……来るよ……。あの子が来るよ……》

「うにゅ?」
えみるは工事の塀を見上げる。

――やっぱり来てしまった。あれほどいけないと言ったのに……。どうやら、私の心の叫びは残念ながら伝わらなかったようです。こうなったらもう仕方がない。皆さんと一緒に彼女を見守りながら過ごすことにしましょう。これもまた果てしない物語のごくごくわずかではありますが、一部となるのですから……。

第九話 永倉えみる ~果てしない物語~

えみるは破れた柵の間を通り抜け、工事の塀の内側へと入る。
その中は――学校。えみるのいた小学校の旧校舎。
誰の姿もないが、ブルドーザーが見える。そう、ここはもうすぐ取り壊されようとしていた。
しかも学校の一部は既に壊されている。
「……ラムネ瓶さん……!」
しかし不幸中の幸いか、中庭の方は無事だった。
「今掘り出してあげるりゅんっ…」
そう言って学校の中へと入り込み、歩き出すえみる。

《来たよ……来たよ……》

(待っててくれるよね、ラムネ瓶さん……。私の思い出と未来をずっとずっと抱きしめて……)
その時、急にカラスが泣き出す。驚いてビクッと震えるえみる。
しかも、周りを見ると、そこらじゅうにカラスが。
「……そういえば……」

小学校4年生の秋。回想
旧校舎の中。
「ねえ、知ってる……? 生まれてから何十年も何百年もたつと、物にも霊が宿るんだって」
「へぇ……」
「つくも神って言うんだよ……」
「つくも神……?」
「この校舎にも、霊が宿ってたりして……」
脅える少年。
「キャ―――! こわぁい!」
笑ってえみるは言う。

「いらっしゃるんでしょうか……つくも神……」
そう言ってタロットカードを取りだし、占いをはじめようとすると、なんと急に目の前の門が倒れてきた。
「キャ―――ッ!!」
間一髪、避ける。その時タロットカードを取り落とす。
その時たった一枚、表になっていたのは、「THE TOWER」。しかも逆位置。
――すなわち、「破滅」。
急に空が雲で覆われる。と同時に、雨まで降り出す。
慌ててえみるはカードを拾い、校舎の中に走り込む。
「も~う! なによこれぇ!?」

《もう帰さない……》

「だれ!?」
思わずえみるは校舎の中を見渡す。誰もいない。
《お前がここから帰れるのは、お前がお前でなくなったときだ……》
「何それ! 冗談ポイだよっ!」
《クックック……。そうだろうか……》
その時えみるは初めて気が付く。自分の服が濡れていないことに。
校舎の外を見る。……雨は降っていない。
「そんなっ!」
蛍光灯が天井から落下し、大きな音を立てる。
思わず恐くなり、そこから逃げ出す。校舎の中を走る。
ドアを開けると、水道の蛇口にかかっているコップ(?)が揺れている。
後ずさりすると、後ろでガタン、と言う音。見ると、机を重ね合わせたバリケードが知らぬ間に出来上がっていた。
「なんで!? 誰なの? 何でこんなコトするのっ!?」
《この場所を公園になどさせない……。ここは私のすみかだ!》
「だからって……。どうして私なの!!」
《それはお前の希望でもある……》
「希望って何? 私こんなコト頼んでないっ」
《私にずっと生き続けて欲しいという想いを送ったではないか……》
「え……?」
《願いどおり私は生き続けてやる……。お前の身体を魂の拠り所としてな……》
何者かの影が大きくなり、えみるに襲いかかる。影がえみるにまとわりつきはじめる。
「……そんなこと、お願いしてないってばぁ!」
言って無意識に机ののバリケードの方へ逃げ出す。……何の抵抗もなしに、机をすり抜ける。
思わずびっくりしてえみるは転ぶ。机が消滅した。
そこでえみるは理解した。そう、霊だから幻を見せることしか出来ないのだ。雨も同じ。
そうなるとえみるは強気になる。
「もうすぐだよ、ラムネ瓶さん……」
周りにだれもいないことを確認し、校舎の内部の門に手をかけ、思いきり開ける。
「……やったぁ! ……!!」
目の前には、また同じ門が。
「どうして……?」
手を触れると感触があった。先ほどのような幻ではない。
《逃げられはせん……!!》
外で紅い雨が降り出した。
《この校舎は私の身体……。お前は私の身体の中にいる……》
「イヤァ―――ッ!!」
走り、その場から逃げ出す。
《何処に逃げようと同じこと……!! さあ身体をよこせ……! よこせ……!!》
その場に座り込み、いやいやと叫びながら耳をふさぐえみる。
「こっちだ! えみる!」
「! その声……!」
「早く! こっちだ!」
「ダーリン!」
そう、少年の声。えみるは声の聞こえた方へと走り出す。
《ムダなのがわからんのか……!!》
「お願い、守って……ダーリン……!」
そう言って、声の聞こえた部屋のドアに体当たりし、ぶち破る。
目の前は奈落の底。
えみるは目をつぶり、ゆっくりと一歩踏み出す。
《やめろ! そこへ入ってはならん!!》
おもむろに目を開けると――教室。普通の教室。
ただ、一つだけ違うこと。床に魔法陣が書かれていることだった。
「……そっか。そうだったんだ……。ありがとうりゅん……」
そうえみるは言うと、その魔法陣の真ん中で横になり、目を瞑った。

――はぁ、良かった……。私に出来るのはこれくらいです。ははは、可愛い寝顔ですねぇ……。そうそう、ここは彼女にとって一番安心できる場所だったのです。ええと、もうどれくらいになりますか、そう、7年も前、あの時も同じでした。お姫さまが眠っている間に、少しその頃のお話をしてみましょう……。

再び回想

――小学校の時、彼女は、少し変わった、いえ、変な子と思われていました。
ぼーっと授業を聞く生徒達。窓際のえみるは、窓の外で何かみつけたのか、「あ」と声を上げ、席を立つ。
「永倉、どうした? 今度は何だ?」
教師が訊く。
「UFOだよ」
その言葉に生徒全員が反応し、窓際に集まる。
しかし、何も窓の外にはなかった。
「見えないじゃん」
「うそばっかり」
「さぁ、さっさと席に戻れ!」
一瞬のざわめきは終了、また生徒たちはぼーっと授業を聞きだす。
しかしその最中も、えみるは窓の外を向き、目を輝かせたままだった。
そう、えみるには見えていたのだ。

――まあ、きっかけはそんな小さなコトでした。そして彼女自身も、自分とみんながちょっぴり違うということに、だんだんと気付いていきました。

夜。風呂。
「……見えないんだって。みんな」

また雨のある日。
花壇の端にしゃがみこみ、何かを待っている。
「コロポックルさん、出てきてくださいっ」
その後ろを、幽霊女、などと最低のことを言いながら男子が駆けていった。
暗い表情になるえみる。うつむき、泣き出してしまう。

――みんなより余分に夢を見る女の子。小さい頃からずっと彼女はそうでした……。

そして秋のある日。
ある男の子が、えみるのクラスに転入してきた。
そう、それがあの少年。

――それが、彼女にとって運命の出逢いの始まりでした。

丘の上で旧校舎を見つめるえみる。
「旧校舎さん、見女はあなたが寂しそうにしてるなんて感じないんだって…」
そこへ、少年が現れる。
「なんか、気の弱い妖怪が住んでそうだよね……」
それを聞き、えみるは嬉しくなる。
「信じるのっ? よーかい」
「うんっ。入ってみようか。探検っ!」
そう言って二人は旧校舎の中を探検したのだった。

――彼女の心臓がドッテコドッテコと、大太鼓のように鳴ったのは、決して、その冒険の為だけではなかったと思います……。

ある教室を歩いていると、腐っていたのだろう、えみるが踏んだとたん、床の板が割れ、えみるはよろめく。
少年はえみるを抱きとめる。
沈黙。
「あ……」
「あ……」

――お互いが大切な存在となるのに、そんなに時間はかかりませんでした……。

-CM-

いつものように、えみるは破れた柵を越えて旧校舎の中へとはいる。
今日は少年より早い、と思っていたのだが、予想に反して少年はもう旧校舎の中で待っていた。
「勝ちぃ」
「走って来たのにぃ~」
そう言って、二人はまたいつものように遊ぶ。

窓際の机に座り、お菓子を並べ話す二人。
「ユーレイ見たことある?」
「ううん、まだ。あるの?」
「うんっ。おじいちゃんが死んだ日に、ちゃんとピーマン食べなさいって」
「へぇ……」
「それからピーマン食べられるようになったんだっ」
「おじいちゃんのおかげだね」
「今日が命日なの」
「そうなんだ……」
「だから、今一緒にいるかも……」
「ふぅ~ん……」
少年は、お菓子の中からキャラメルを一つ取り出し、窓の縁に置く。
「じゃあこれ、おじいちゃんの分」
えみるはそんな少年の優しさに感動し、「ありがとう」とつぶやいた。

――それは幸せな時間だったことでしょう……。えみるにとって何でもないことが、何でもなく話せる唯一のひととき……。

冬の夜。野外で両手をつなぎ、上を見上げる。
『ベントラー・ベントラー、UFOさま、どうぞ私達のもとにお降り下さい』
何度も何度も繰り返す。
すると、星空に一筋、流れ星が舞う。
笑顔になる二人。満足したようだ。
「カップしるこ、食べよっか……」

雪解けのある日。旧校舎。
少年は何やら教室の床に描いている。
「これなに?」
「魔法陣」
「魔法陣……?」
「うん。……何があっても、どこにいても。この魔法陣を通して、僕の力をえみるに送れるように」
その言葉に、えみるは顔を染めて少年の肩をぐりぐり押す。照れ隠しのように。
そのとき、初めてここに探検に来たとき、えみるが床を割り、足を踏み外したその下に何かがあるのを少年は発見した。
それは……ラムネの瓶。土に埋まっていた。

――この建物が出来た大正八年。大工の一人が休憩時間にラムネを飲んで、その空き瓶である私を、こんなところに置き去りにしたのですが……まあ、そんなことは彼女たちにはどうでもいいことでした。

二人はそのラムネ瓶を掘り起こし、水道ですすぐ。

――二人は、私をきれいに洗ってくれました……。私に反射した光りで、キラキラ輝く彼女の顔を、今でもよ~く覚えています。しかし、それが彼女と彼の最後の思い出になってしまいました……。

「ウソ! ウソりゅんっ!!」
「ごめん……」

――彼はそれからすぐ引っ越さなければならなくなったのです……。

ヤダヤダとえみるは叫ぶが、大人の事情には子供はどうすることもできない。
少年は終始「ごめん」と誤るだけだった……。

次の日。
小さな紙に二人はそれぞれ何かを書き、それをくるくると丸め、あのラムネ瓶の中に入れる。
「これをここにに入れて、一緒にタイムカプセルにしよう……」
「ウン……」

――それは大きくなって再会し、今と同じように遊ぼうね、という約束を込めた手紙でした……。そう、彼女は二人を埋めた私を守るために、ここへ来てくれたのでした……。だから私も彼女を守らなければ……。

「えみる! えみる!」
少年の声が聞こえる。えみるは飛び起き、辺りを見回す。
「ここももう危ない! すぐに出るんだ!」
声だけが聞こえる。
「ダーリン……来てくれたんだ……」
えみるは思い出の教室から出る。するとまた少年の声が。こっちだ、と叫んでいる。
えみるは声のした方へと駆け出す。

――行くなっ! えみる!! 

《クックックック……》

えみるの後ろの床板が音をたてて破壊していく。えみるは必死で逃げる。
蛍光灯、窓ガラスがえみるに向かって攻撃を仕掛けてくる。えみるは必死でそれから逃げ回る。
「えみる! こっちだよ!」
少年の声の方へひたすら走る。そして、少年の影のようなものがいた。
少年は屋根裏への階段をゆっくりと上がっていった。
「待って!」
えみるのその階段を上がる。
そこには少年が待っていた。
「バカだな……」
「え? ダーリン……?」
「本物の僕がいるわけないじゃないか……」
少年は姿を消した。
そして、目の前の――昔は大きな時計だったのだろう――歯車、すなわちこの学校が、心に語りかけてきた。

《ククク……来るはずがないだろう……》
「どうして!? どうしてこんなにしてまで私を!?」

――未練が……。未練が旧校舎の霊をそうさせているのですっ! 思い出を捨てなければ! ああ、私の声は彼女には聞こえない。このままでは彼女は……。

《お前はあのラムネ瓶を守るためにここへ来た。それは何故だ……?》
「なぜって……。無くなっちゃヤだから!」
《そう……無くなってしまうということは悲しいことだからな……。形が無くなればやがて人は忘れてしまう。形が消え、人々にも忘れられたら、それは永遠に無だ。だから私は身体が欲しい。お前の身体が必要なのだ》
えみるはうつむいた。
「……そうだったんだ」
えみるは歯車の方へ向かって歩く。
――納得してはいけない! からだがのっとられたら、自分の存在が自分のでなくなってしまうんですよ!
「いいよ」
――あああ! 純粋すぎますっ!
「この校舎が無になっちゃったら、私とダーリンの想い出もなくなっちゃうもん。だから、いいよ。私の身体欲しいなら。私の中で、校舎さん、ずっとずっと生きてて欲しいから……」
――駄目です! そう考える自分がもういなくなってしまうんですよ!
えみるは目を瞑った。風がえみるを吹き上げる。
歯車が回転しはじめる。

「あれ……? ちがう、ちがうよ……」
《もう遅い! まもなくお前の身体は……!!》
「でもちがうよ……。想い出は、無くならないんだ。そうだよ! たとえこの校舎が無くなっても、私の想い出が無くならない限り、校舎さんも永遠だよっ!」
歯車の回転が遅くなる。
「そんでもって私が死んでも、私の想い出は永遠だよっ!」
歯車が止まる。
《永遠……? 想い出は、永遠……?》
そして、学校は沈黙した。

目を覚ますと、そこは旧校舎の入り口。
雨が降り、えみるの身体は塗れている。
「あれ、夢…だったのかな……?」

あらためてえみるは校舎の中へと入り、あの想い出の教室の、割れた床の下のラムネ瓶を取り出そうとした。
しかしえみるは手を止めた。
「あ……。うん……」
そして、えみるは自転車を引っ張り、その旧校舎を後にした。

――そうなると、私は一体何なのでしょう? いいえ、これは決して夢などではありません……。

「バイバイ、ラムネ瓶さん……」
えみるは旧校舎を振り返り、つぶやいた――


真夏の朝。
旧校舎は完全に取り壊されていた。工事中、の看板も立っている。
そして、えみるはそこを訪れた。
「フフッ……。久しぶりに来てみれば……。みんな~! 元気ぃ~? 行って来ま~す!」
えみるは元気に学校へと走っていった。

――そして、私も永遠になりました。きっとたぶんあの子も大人になって、夢だけでは生きていけなくなるのでしょう。……でも、私は安心しています。だって、それでもあの子が夢を無くすことはないでしょうから……。だから私も、ずうっとずうっと、このいつまでも続く果てしない物語の一員でありたいと思います……。

――ところで、私の中の紙に書かれた日付、覚えているんでしょうねぇ?
「え?」

-EDテーマ-

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