第四話(4月29日放送)

杉原真奈美
〜微熱少女〜

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko / Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
須永司
岡本英樹
平山円

ストーリー

サナトリウム。桜が舞う。
窓辺で外を見つめる真奈美。

第四話 杉原真奈美 〜微熱少女〜

憂鬱な表情の真奈美。

――こうして窓辺にいるだけで、不意に涙がこぼれかけるのは、たぶん、春の日差しが優しすぎるから。小鳥達は大空に舞って、あんなに楽しそうなのに、私だけは、羽ばたけないでここにいる。こんなのどかな風景を見られるのも、あと何日なのかな……。あんな話聞きたくなかった。聞かずにいたら、今日も笑顔で入られたのに。

数日前。
熱を計る真奈美。37度ちょうど。微熱。
「いつまで続くのかな……この微熱」
ただの検査入院だったはずが、長期の入院となってしまっている。
真奈美ちゃんはもともと平熱が高い、という看護婦の言葉にも、憂鬱そうな表情のままだ。
「ま、春だし。恋する乙女に微熱は付き物ってね」
「あたし、恋なんて……」
その時真奈美の前に紙のコップが差し出される。お小水、と言うヤツだ。
今日も一応お願い、と言う看護婦に、渋々それを受け取る真奈美。

紙コップを持って廊下を歩く真奈美。
「これって恋とはほど遠いよね……」
紙コップを見つめて真奈美はつぶやく。

階段を上っていると、ある部屋から人の声がする。医者の声だ。
しかも真奈美について話している。
どうやら検査が完了したらしかった。
「退院できるんだ……」
喜ぶ真奈美。
――しかし。
意志の表情が硬い。ため息を付いている。
「…杉原さんの両親には悪いが、これじゃどうしようもないな……」
同じ検査を何度行っても同じだ、と看護婦が言う。状況が芳しくないのだろうか。
「杉原さんの両親には、私が説明しておこう……」
絶望の表情を浮かべる真奈美。
「しかし、真奈美ちゃんだったか……。若いんだから、思いきり遊びたいんだろうに……気の毒にな」
「でも、こればかりは、私達の力ではどうにも……」
真奈美は絶望と恐怖が混じりあったように、うつむきながら階段を上っていった――

――その言葉で私には分かった。パパやママや大先生、婦長さん達、みんなが笑顔をくれるのは、私の命が桜の花のように、もうすぐ散っていくから……。みんなの気持ちに答えなきゃ。そう、私も、できる限り笑顔を残してお別れしよう。

その時、子供の鳥が窓に激突した。そのまま落ちていく。
「……あっ!」
急いで下に降りる真奈美。
小鳥を抱き上げ、小鳥と会話を交わす(ホントに会話をしているのかは私には分かりません)。
小鳥は未だ上手く飛べないらしかった。

「……! あなたあの時の……」
「あの時の小鳥さんによく似てる……」


中学一年生の秋。回想

花畑を歩く真奈美。
そこに、小鳥の悲鳴の様な小さな声が聞こえてきた。
見れば、花に隠れるようにして小鳥が倒れていた。
どうしようかとおろおろする真奈美に、声をかける者がいた。――少年だった。

「この子、元気になるかな……?」
「大丈夫、なるよっ!」

羽ばたいていく小鳥。
海を見つめる真奈美と少年。
「私も、あの娘みたいに元気になれるかな……」
「なれるよっ! なれるに決まってるさっ!」


真奈美の手のひらの小鳥も羽ばたいていった。

――ごめんね。私も元気になって羽ばたくはずだったのに……。やっぱり私、みんなから元気をもらってばかりだった……。

涙を流す真奈美――

――笑顔だけじゃない。もっと何か残したい。私が生きていた証を。

「……!」


再び回想

机の上に一冊のノートが置いてある。
少年はそれを見つけ、手に取る。
「何、これ?」
「あ、やだ、それ……」
少年はノートを広げる。
「真奈美の、詩集?」
「やだ、恥ずかしい……」
少年は熱心に読み始める。
「あ、あの……。どう……?」
「すごく、よかった」
「ホントに……?」
笑顔を浮かべる真奈美。
「こういうの、描けるって、いいなぁ」
「そうかな……?」
「だって、みんなに、夢をあげられるじゃない」


――真奈美は決心した。

深夜。
小さな明かりをつけ、真奈美はノートに何やら書いていた。消しゴムで何度も消しながら。

その時、看護婦が部屋に入ってきた。慌ててノートを閉じる真奈美。
何やってたの? と言う看護婦の質問。
「詩を、描いてたんです」
「詩って?」
「夢をポエムにして、それが100になったら詩集にするの……」
感心したような声で、いまいくつか、と看護婦が尋ねる。
中学の時から描き溜めておいたのが95。あと5つ。
「出来たら読ませてね。でも、夜更かしは程々にねっ」
看護婦は出ていった。
真奈美は思わず笑顔になった。
しかしまた表情を堅くすると、詩を描き始めた。
「あと5つ。頑張ろう。私には時間がないんだもの……」


【まちあわせ】
 ――今の私のささやかな夢
    土曜の午後の待ち合わせ
    遅れたあなたに ちょっぴりすねて
    背中を向けてみせること
    もう知らないってわたしが言うと
    あなたは慌てて誤りながら
    手品みたいに パッと花束
    そしたら私は微笑んで
    きっと笑顔でこう言うね
    「怒ってないよ。ありがとう」
    だからあなたが大好きなの――


次の日。
「何よ、元気そうじゃん」
真奈美の学校の友達だ。お見舞いに来たらしい。
おもちゃの小鳥をお土産に。
「杉原がいないとさぁ。突っ込みばっかでボケがいなくて、会話が成立しなくってぇ」
「ひっどーい」
真奈美はちょっと膨れ顔だ。
その後、おもちゃの小鳥の不気味な声で盛り上がり、友達は帰っていった。

夕方。5時を知らせるボンボン時計。
真奈美はみんなどうして来てくれたのか疑問に感じていた。ただの検査入院のはずなのに、だ。
「やっぱり長くないからお別れに……」
沈痛な表情を浮かべる真奈美。窓の外を見つめる。夕焼けがまぶしい。
「こんなことしてる場合じゃない。描かなきゃ。私には時間がないんだもの……」
シャーペンの芯を出し、スポットライトをつけ、真奈美はまた詩を書き始めた――

−CM−

【はじめての背伸び】
 ――夏はやっぱり海だよね
   みんなでわいわい 電車に揺られて
   もちろんあなたも、その中にいて
   白い砂浜 よせる波
   日差しの中へ駆け出す私
   そしていつしか気が付くと
   あなたと私 二人きり
   夕日を浴びて 二人きり
   不意に手と手が触れあって
   瞳と瞳 通ったら
   瞳と瞳 通ったら
   あなたに背伸びを しようかな――


「はぁ……。なんだかまた熱がでてきたみたい。今日は寝よう……」

朝。
「真奈美ちゃん、起きてる? 今日は回診だから、お熱はかって待っててね」

真奈美が目を覚ますと、ドアをノックする音が。
ドアが開き、若い医師が入ってくる。
「おっはよぉう、杉原さん」
「あ、若先生……!」
「何だよ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか、お化けじゃないんだから」
後から入ってきた看護婦によると、大先生は会合で出張らしかった。
そこで若先生が回診に来たのだ。
なんとも言えない表情を浮かべる真奈美。

「親父の方が、お気に入りだったかな?」
「いえ、そういうことは……」
「うーん、微熱がまだ続いてるようだな」
カルテを見て若先生が言う。
「ん、じゃあ、脱いで」
笑顔で若先生は言う。
「えっ……!?」
回診なのだから当然、心臓の調子も診るのだ。
が、やはり真奈美は若い先生の前で服を脱ぐことにかなり抵抗があった。
今までは大先生に診てもらっていたのだ。
なかなか脱ぐ素振りを見せようとしない。
「あ、あの……。もういいんです。どうせ診てもらっても、私……」
「あ……」
笑顔だった若先生と看護婦が急に硬い表情になる。
困ったような顔で若先生は助けを求めるように看護婦を見つめる。
看護婦は仕方ない、と言ったような表情で、
「ほら、ワケのわかんないこと言ってないで、さっさとしなさいっ! 減るモンじゃあるまいし」
「……は〜い」
渋々真奈美は服を脱ぎ始めるのだった――

回診が終わった後。
「……描かなきゃ」


【ふうせんのきもち】
 ――もしも私が奪われたなら
   この地球の果てまでも
   捕まえに来てくれますか?
   あなたの気持ちが見えなくて
   なんだか少し 不安なの
   風にふんわり浮かんだら
   そのまま流れてしまいそう
   私の心を捕まえて
   私のからだを捕まえて


椅子にもたれる真奈美。
バードウォッチングの本を広げると、そこに封筒が。
中には一枚の写真が入っていた。

写真を見つめる真奈美。
写真には、机の上で弁当を食べる真奈美と、それを取り囲んでいる楽しそうな表情の友達の姿があった。
その後ろの方には、ピントがボヤけていたが、少年の姿が。

――久しぶりだね。今何してるの? どこにいるの? どんなお友達がいるの? 私は、私は元気でやっていますって、言いたいけど、逢いたいよ……。来て……。翔べない。一人じゃ……。もう、絶対泣いたりしないから。



【ネバーエンディングドリーム】
 ――いつか見た映画みたいに
   来てくれたあなた
   白いブーケを空に飛ばして駆け出した私。
   抱き上げてそのまま どこへ行くの?
   帰るのは白い家
   日溜まりのテラスで
   出掛けてゆくあなたに手を振った私は
   ダージリンの香りの中、流れるように詩集を編むの
   いくつもの夢や愛
   たくさんの人達に伝えたい気持ちが
   あふれでてくるから
   あふれでて……

詩を描く鉛筆が止まり、涙がノートにこぼれ落ちる。
そのまま机にうつ伏せになり、真奈美は泣いた――
「だめ……。やっぱり、このままじゃ終われない……」

――明日、大先生に言おう。どんな辛い治療でも我慢しますから、あたしを治してくださいって。無駄でもいいの。…私、絶対あきらめたくない。


次の日の朝。
「今日は、大先生が検査の結果を知らせてくれるそうだ」
真奈美の父が言った。
両親は、真奈美のためだと思って、先生に包み隠さず話してくれるよう頼んであると言う。
「私なら大丈夫……。覚悟は出来てるから」

ドアをノックする音。
大先生と若先生。そしていつもの看護婦も入ってきた。
礼をする真奈美の両親。

「…早速ですが、検査結果をお知らせしましょう」

「長期にわたる検査の結果、杉原真奈美さんは……」
「異常なし」

「えっ……!?」
「先生、そんなっ!」
「本当のことをっ!」
両親は信用していない様子だ。真奈美は生まれつき病弱だから、と食って掛かる。
「全くどこにも、異常はない」
『そ、異常なし』
看護婦と若先生の声もハモる。

「ご両親の心配は分かるが、心配しすぎだよ。そんなだから、娘さんも神経質になって、検査にも異常をきたしたんだ」
「あ……」
うつむく真奈美の両親。
「微熱が続いたのも、そうした心因性によるものだ」
「ホントに申し訳有りませんでした……」
両親は大先生に何度も頭を下げた。
「明日はめでたく退院だ。ははははは……」

次の日。

――ありがとう、サナトリウム。おかげで私、ちょっぴりだけど、未来が見えてきたような気がするの。
――ありがとう。ありがとう、サナトリウム……なんてねっ。

ある日。
「どうかな、そんなの?」
「アニメみたいなこと言って。今時の夢みる世代には負けるよっ」
サナトリウムの薬局コーナー。あの看護婦と話す真奈美。
「……そうかなぁ?」

「牧原くんっ」
若先生が看護婦を呼んだ。
「あ、ハイっ!」
嬉しそうな表情の看護婦。
「杉原さんに、念のため錠剤出しといてね」
「は、ハイッ」
恋する乙女の顔の看護婦。真奈美はピンときた。
「……ふぅ〜ん…」
少し意地悪な笑みを浮かべる真奈美。

「……でもいいわよねぇ。そんなステキな初恋の思い出があってさ」
真奈美に錠剤を渡しながら言う看護婦。
「私なんか初恋の人に口も利けなかったもの。…今だって。せめて美しい思い出だけでもあったらねぇ。そういうのいいわよねぇ…」
「えっ?」
「だって、その彼がいたからこそ、今の真奈美ちゃんがいたんでしょ? しっかり体力つけて勉強して、立派な作家になってよねっ」
「うんっ! つぐみさんも頑張ってねっ」
「えっ?」
怪訝な顔をする看護婦。
「……若先生のことっ!」
「…っへ?」
真っ赤になる看護婦。こらっと、と真奈美をたしなめようとするも、カウンターの窓に頭をぶつける。
「ふふっ! お大事にっ!」
笑いながら真奈美は走り去っていった。
「……牧原君」
その光景を見ていたらしい若先生。
「……何やってんの?」
あたふたしながら真っ赤になる看護婦……。

――杉原真奈美、魚座のA型。香川県高松市生まれの17歳。体力つけて元気になって、いっぱい、い〜っぱい詩を書きますっ。そしたらあなた、読んでくれます……よね?

−EDテーマ−

Return to Top Page