第五話(5月6日放送)

森井夏穂
〜友情の通天閣スペシャル〜

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko / Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
杉島邦久
佐藤育朗
しんぼくたろう

ストーリー

第五話 森井夏穂 〜友情の通天閣スペシャル〜

走る夏穂。前を走る選手にバトンを渡す。リレーの練習だ。
走り終え、息を切らす夏穂。

「お嬢さん、こんなトコでなにしてんの?」
グランドの隅に座り込んでいる女の子に声をかける。彼女は夏穂の親友、恭子。
「…はらへった」
「ん、そんならええトコ連れてったるで」

「いやぁ、ますますプロっぽなったやん夏穂ぉ」
お好み焼きの具をかき混ぜる音。
ここは夏穂の実家だ。お好み焼き屋「もりや」。数々の表彰状、トロフィーが店に飾ってある。
全て夏穂が取ったものだ。
「ふふっ……」
「ほら、嬉しがっとらんと油」
夏穂の祖母が言う。
「わかってるよぉ」
タネを鉄板にしいて焼き始める。手際よくソース、マヨネーズ、鰹節をかける。
「ほいっ! 元気焼きおまっとさんっ」
「今日はあたしのおごりっ! これで今度の大会まで、元気に乗りきらんとねっ」
「何がおごりや、こんなんで金もろたらバチあたるで」
どうやら祖母は未だ夏穂の実力を認めていない様子。
「なんやそれ、看板娘にむこうてぇ」
「なんやとはなんや、初代看板娘にむこうて」
「江戸時代の話やろぉ」
「あほかっ」
それを見て笑う恭子。さすが大阪、と言う感じだ。

そこへ3人の客が入ってくる。
「兄ちゃん、まいどぉ」
すさまじいまでの手際の良さでお好み焼きを焼く祖母。
難しくないぶん、愛情が手際が大事なのだ、と言う。
「……いつ見ても凄いなぁ」
食べながら恭子が言う。
「おおきにっ」
祖母が笑って言う。
「なぁ、おばあちゃん、あたし、いっぺんでええから、あの通天閣スペシャル、食べてみたいわぁ」
壁に貼って有るポスターを見て恭子が言う。
特大のお好み焼き、「通天閣スペシャル」という文字が。
「せやけど、あれは30分以内に一人で食うてもらわなあかんで」
そこをなんとか、お持ち帰りOKにして、とせがむも、通天閣は大阪のシンボルやから、
そんなことはできんと、ゆずろうとしない祖母。
「…えぇ〜?」
ガッカリした恭子。
「そんなら、今度の大会でうちらが優勝したら、ってのは?」
夏穂が助け船を出す。
しかしそこで恭子は一瞬ハッとなる。
「あかんあかん、確率高すぎるわ……ん、けどまあ、ええか」
「おっしゃぁ〜!」
「おばちゃぁん、ビール!」
客に呼ばれて祖母はカウンターからでていった。
「恭子っ、拝んどこっ!」
いつの間にか、ぼーっとしている恭子。
何かあったのか、と夏穂が聞くが、何でもない、と無理に笑顔を作る。
「ほんなら拝もっ!」
と、店の壁にかかっているバトンに手を合わせる。バトンにはハチマキが結んであった。
「……あきれた」
「ん?」
不思議そうな顔の夏穂。

夏穂の部屋。
「あんた、まだあんなん拝んでたん」
「当たり前やんか、あたしの走る原動力やもん」
「……原動力なぁ」
「忘れられへんよ。ううん、忘れたらあかんのよ。……あの日の思い出は」


小学校5年生の秋。回想

夕方。バトンを取り落とす少年。
「なにしてんのぉ? 走ってんのか歩いてんのかわからへんやんかぁっ。遅いことは亀でもするでっ!」
地面に手をつき、息を荒くする少年。
「そんなんやったら、アンカーやなくて、あかんやでっ!」
それでも息を荒げたままの少年。
「……限界やな」
しかし少年は取り落としたバトンを手に取り、立ち上がった。

『けどあいつは言うた。僕はやるよ、ここでやめたら悔しいもんってな。その時のあいつの顔、めっちゃかっこよくて、あたしなんや知らん、絶対優勝できる、思えて……』

一緒に練習し、手をつなぐ少年と夏穂。

『せやけどあいつは、大会の直前に引っ越ししてしもて、結局本番のバトンは渡せんかった』


「せやから、今でもあたしは、あいつにバトンを渡すつもりで、全力疾走するんよ」
「へいへい、美しい思い出でござって」
恭子が少々嫌味っぽく言う。
「なんやとぉ?」
「夏穂のその話、耳タコやもん」
「あ、そ、そう、ごめんな……」
苦笑いをする夏穂。
「……もう、忘れたらええのに」
「……なんで…?」
「あ、……だ、だって、かなわん恋やんか?」
「あ、なんやそんなことか。あたし全然気にしてへんもん」
「……ほんまに?」
「まあいつか縁があったら巡り逢えるやろっちゅうことや。それとも、優秀な探偵の小枝ちゃんにでも頼んでみるかぁ?」
「阿呆か、そんなん子ネタにされたら終いやでぇ?」
「なんやとぉ?」
夏穂は恭子につかみかかる。笑いながら格闘する二人――

恵比須町駅。
「ま、とにかくがんばろな、大会。あたしら絶対選ばれるて」
「……うん…」
「なんや、自身ないんか? 大丈夫やて。ほな、また明日な」
走り去っていく夏穂。
見えなくなるまで恭子は目で追っていた。
「……あかんな、あたし」
一人つぶやいた。

ある日の夕方。練習のあとのミーティング。
リレーの選手の発表。
「佐藤、赤碕、森井、檜山。以上のメンバーで、ベストをつくしてもらいたい」
そのとき。
「……監督」
恭子が言った。真剣な表情。
「ん、なんや、檜山?」
「……あたし、出られません」
「…恭子?」
怪訝そうな顔の夏穂。まわりも騒がしくなる。
「どういうことや?」
「あたし、転校するんです」
「ウソ……ウソやろっ?」
「なかなか言い出せへんで……。すんませんっ!」
恭子は走り去っていった。

「なんで……、なんでなん?」
「ごめんな……」
「ごめんちゃうやろ?」
父親の転勤が急に決まったという。岐阜の高山。大阪からは充分に遠距離だ。
一人で暮らしてもええ、と父親が言ったらしいが、そうすれば、父親一人だけになってしまう。
「……そんだけ、負担も増えるし」
「そうやな……。あたしら子供には、選ぶ権利無いもんな……」
「でも、あたし最後まで練習には付き合うよ? 夏穂のコーチやったる!」
「……頼むで、桧山コーチ」

夜。準備中の看板がさがる夏穂の家。
「へえ、そうか、そらさみしいなぁ…」
今日の出来事を祖母に話す夏穂。
「でもあたし、恭子の分まで頑張るよ。出られんようになって一番辛いのは、きっと恭子やもん」
「そうやな」
「で、ものは相談なんやけど……」
「……ん?」
「餞別に、通天閣スペシャル、作ってくれへんか……?」
「あかん」
「なんや、どケチっ!」
「阿呆、本気にすなちゅうねん」
「……えっ?」
「形式っちゅうモンがあるやろ。一度は断っとかなあかん」
「なんや、それ」
「お前にも手伝うてもらわなな。スペシャル通天閣スペシャルや」
「……うんっ!」
そして夏穂は供えてあるバトンに目をむけ、
「練習の方も気合いいれますんで、ほんま、よろしゅうたのんますっ!」
手を打って拝むのだった。

次の日から。
練習に次ぐ練習。特にバトンの受け渡し。リレーではこれが決め手になるからだ。
タイムを計る恭子。
「……伸びんなぁ」
ストップウォッチを見て言う。
「みんなぁっ! もういっちょいこかっ!」
夏穂はみんなを促し、練習を再開する。
今度こそ、と気合いを入れ、バトンを渡そうとするが、取り落としてしまう。

もう一度、とバトンの受け渡しの練習をする。
しかしなかなか上手く行かない。
「すんません……」
受け渡される方の女の子が言う。
「キタちゃぁん、あたしにビビッとんのとちゃうんかぁ?」
夏穂以外の女の子との受け渡しは上手くいったのだ。何故なのか。

その様子を見つめ、恭子はストップウォッチを握りしめた。
恭子はその理由が分かっているらしかった――

練習後。
「なあ、夏穂」
恭子が言う。何か話がありそうだ。
「ん?」
「あ、あの……あのな……」
言いだしにくそうな様子。
「あ、明日引っ越しの荷造りすんねん。暇やったら、来てくれへんか?」
「何だ、そんなことで悩んどったんか。いくよ。たとえデートがあっても。恭子はあたしの一番大事な友達やもん」
「デートは、ありえへんけどなぁ!」
「なんやとぉっ!」
また恭子につかみかかる。いつものことのようだ――

「ほな明日なぁ!」
スポーツバッグを自転車のカゴにいれ、夏穂は言った。
「うん、明日!」
恭子は笑顔で夏穂が自転車で走り去っていくのを見ていた。
そして見えなくなると。
「……あかんなぁ……あたし……」
急に暗い表情になり、つぶやいた――

−CM−

檜山家。
約束通り、引っ越しの手伝いに来た夏穂。
しかし昔のアルバムを見つけ、二人で騒ぎ、準備が進む様子はない。
しかしあるページにある写真を見つけると、急に黙る夏穂。
「ん、どしたん、夏穂?」
「こんなん、まだ持ってたんか……」
「あ、あいつんち探して、二人で京都行ったときの……」
そう、あいつとは、少年のこと。
少年は大阪のあと京都に引っ越した。
夏穂は少年の家を探しに行きたかったのだが、その頃は小学生で、とても行けるわけがなかった。
そして、中学生になった時、恭子と一緒に京都まで探しに行ったのだが、もちろんその時は少年はまた他の土地へ引っ越してしまった後。
結局少年に逢うことが出来なかったのだが、記念に撮った写真がそれだった。
夏穂と恭子が昔の少年の家の前でピースサインをしている。
「あたしは、この写真、どっかやってしもた」
「……そうなん?」
「結局あいつの写真一枚もないけど、あたしん中にはいつもいるから。いつもあたしの前を走っててくれるから……」
「夏穂……」
沈黙。
「おおっと、ここでまた恥ずかしい写真〜!」
そしてまた騒ぎ始める二人――

夜。
「ごめん、結局ケーキ食べて騒いだだけやった」
「ま、予定通りや」
「ほんなら、明日の朝電車で行くから……」
「8時ちょうどのあずさ2号やったねって、違うやろっちゅーねん」
「うわ、さっぶぅ……」
「7時57分の、急行高山、やろ」
そう言うと夏穂はうつむき、
「じゃあね、見送りに行くからっ!」
恭子の家から走り去っていった。
「夏穂!?」

歩道橋。
夏穂が1段とばしで階段を駆け上がる。橋の真ん中まで来ると立ち止まり、息を荒げた。
「はぁ、はぁ……。あかんあかん、、明日のこと考えたら涙出そうになったわ……」
夏穂は頬を両手で2、3度叩くと、
「笑顔で送るんやろっ! よっしゃっ!」
そういうとまた歩道橋を走り始めた。
その時。
「夏穂ぉ〜!」
恭子の声。思わず夏穂は立ち止まり、振り返る。
恭子が息を荒くしながら歩道橋を上がってきた。
「恭子……。何か忘れものしたっけ?」
「忘れたんはあたしや。……めっちゃ大事なこと」
恭子は夏穂に歩み寄る。
「な、なんやの……?」
「夏穂……。もうあいつのこと忘れや」
「なんやいきなり……」
恭子は、夏穂のリレーのバトンが失敗するのは、あいつがいるからだ、という。
「バトン渡すとき、あんたの眼には次のランナーが見えてない。心の中で、あいつを見てるからや」
夏穂は愕然とした。まさか恭子がそんなことを言うとは考えていなかったため、ショックもかなり大きかった。
「なんで、なんで……?」
「コーチやって分かった。リレーはコンビネーションが大事なんや。だから……」
「何で、そんなこと言うん……?」
夏穂は俯いた。
「あたしがあいつのおかげでここまで来れたの知ってるはずや……。あいつのおかげでインターハイまで行けたの知ってるはずや……」
「知ってるけど、知ってるけど……」
「なら何でそんな簡単に言うのっ!!」
「簡単なわけないやろぉっ!!」

沈黙。
「恭子のド阿呆っ!! 高山でもどこでも勝手に行けぇっ!!」
夏穂は叫ぶと、走り去っていった。
恭子は、沈黙して動けないでいるだけだった――

次の日。恭子の引っ越す日。
「準備中」の看板のさがったお好み焼き屋「もりや」。
しかし中ではお好み焼きの焼ける音が。
祖母が「通天閣スペシャル」を作っているのだった。
夏穂はといえば、2階の自分の部屋のベッドに膝を抱えて座り、俯いていた。
「夏穂ぉ〜」
祖母の1階の階段の下から呼ぶ声。
「通天閣スペシャル、出来とるでぇ〜」
「もうええんや、あんなヤツ、友達やないもん」
「ああそうか……。ああかわいそうやなぁ、通天閣スペシャル……」
そう言い残し、祖母はそこから立ち去った。
夏穂は時計を見る。6時57分。ちょうど1時間前だった。

駅。
下りのエスカレーターに乗る恭子とその家族。
その間ずっと、恭子は俯いたままだった。

焼けた通天閣スペシャルを4分割する祖母。
まだ何か考えがあるらしかった。

ベッドにうつぶせになり、動こうとしない夏穂。

駅のレストランで食事中の恭子。やはり俯いたまま。
両親が心配して声をかけるが、余り聴こえていない様子で、テーブルのすぐ近くにあった公衆電話に目が行く。

通天閣スペシャルを包み終える祖母。
一つ笑うと、2階の方を向き、硬い表情になった。

その2階の夏穂は、また膝を抱え動こうとしない。
その時祖母がドア越しに、
「ホンマにええんか? 今度は自分から作ってしまうことになるんやで。渡せんかった思い出を」
「……!!」
その言葉に一瞬心が揺れるも、しかしまた意地を張り続ける夏穂。
7時15分。
突然、電話のベル。夏穂はハッとして、鳴る電話を見つめる。
その電話の主は、もちろん恭子だった。
数回ベルが鳴り響き、留守伝に切り替わった。
「あ、夏穂、ごめん……。あたし、あんたが思い出、どんなに大事にしてたか知ってたはずやのに……。友達失格やな」
その言葉にハッとする夏穂。
「あんたへの思い、最後の最後でちゃぁんと渡せんかった……。……堪忍な」
「!! 恭子っ!」
とっさにベッドから飛び起き、電話を取る。
「恭子!? 恭子っ!!」
しかし電話は切れてしまっていた――

階段を駆け下りる夏穂。
店のカウンターに置いてある通天閣スペシャルを取り、玄関を出る。
そこには祖母が車に乗って待っていた。
「ギリギリやないかっ! はよ乗りぃっ!」
「ごめんばあちゃんっ!」
言い、夏穂は助手席に飛び乗る。
猛スピードで車は走り出した。

ホーム。電車を待つ恭子。
もしかしたら、と、階段を見るが、夏穂がのぼってくる気配はなかった。

路地を駆けめぐる車。
「どや、だてに免許もっとらんでっ! しっかりつかまっときやっ!」
やはり猛スピードで走り抜けていった。

7時48分。
高山行きの電車が到着した。

その時、なんと夏穂と祖母の乗った車は渋滞に巻き込まれていた。
いらだつ祖母。
7時50分
「あと7分……。おばあちゃんっ! あたし走るっ!」
通天閣スペシャルを小脇に抱え、夏穂は車を降りて走り出した。
渋滞の道路を全速力で走る。
駅に到着。7時56分。
自動改札をハードルのように跳び越える。
「後で払いますっ!」
叫び、走った。
2段とばしの全速力で階段を駆け上がる。
発車のベルはすでに鳴っている。
夏穂がホームに到着する寸前、ドアが閉まった。
電車は無情にも走り出す。
「恭子っ! 恭子ぉっ!!」
恭子はその声に気付いた。窓を開け、叫ぶ。
それを見つけた夏穂は猛然と走り出した。
まだ電車にスピードがついていなく、ギリギリで夏穂は恭子に追いつくことが出来た。
腕を伸ばし、身を乗り出す恭子に通天閣スペシャルを渡す。
――まるでバトンのように。
「そう、そうや夏穂っ! その間合いやっ!」
「この間合い……?」
その時、フェンスに激突する夏穂。ホームがそこで終わっていた。

「バイバイっ! 夏穂ぉっ!」
手を振り、恭子は今日初めての笑顔を見せた。
電車は、去っていった。
「バイバァ〜い!!」
夏穂もホームの端で叫んだ。

――頑張るわ、大会。思い出は思い出として、胸の奥にしまってな――

−EDテーマ−

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