第二話(4月15日放送)

松岡千恵
〜書けないラブソング〜

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko / Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
木村哲
木村哲
横手博人

ストーリー

夜、バイクを走らせる千恵。どこか急いでいる様子。

第二話 松岡千恵 〜書けないラブソング〜

バンドのメンバーが話している。
どうやら、自分たちが使っているこの練習場が、来年の3月に取り壊されるらしい。
天神のスタジオはレンタルが高かっただけに重宝していたのだが、仕方ないだろう。
メンバーの一人がつぶやく。
「おっせぇなぁ、アイツ……」

急ぎバイクを走らせる千恵。
バンドのメンバーの練習場へ着く。
急ぎ足で入口に向かうが、キーを取り忘れ、再びバイクに戻ってもう一度入り口へ。
地下への階段を下り、ドアを開ける。
「おっそーい!」
「化粧に手間取ったのか、リーダー?」
ヘルメットを外し、千恵は「バーカ」と一言。
早速練習の開始だ――

ある喫茶店。バンドのメンバーと一緒の千恵。
ぼーっと揺れるろうそくを見つめている。
「おい」とメンバーの一人が言う。我に返る千恵。
自分の曲を見てもらっていたことをつい忘れていた。クリスマスのライヴ用だ。
早速弟の慎吾に質問すると、「いいんじゃない? 姉ちゃんにしては、構成がしっかりしてる」と良い答え。
クリスマスでも軟弱な詩は書かないから流石、と裕一。
千恵はそれが売りなのだから当たり前、というが、他の二人は少しため息を付いていた――

「こっちもできたぞ」と隆。いつもよりずっと早い。
ポケットからMDを取り出し、ハッとする隆。間違えた、と言い、別のMDを取り出して千恵に渡す。
少々小首を傾げながら、千恵はそのMDを受け取った。

海の見えるところで、千恵は早速もらった曲を聴いてみる。
目をつぶり、真剣に聞いている千恵を、横から隆がぼーっと見つめている。
「絵になってるんだけどねぇ」と裕一。恋人同士に見えないこともないらしい。
しかし慎吾が「ダメダメ、姉ちゃんまだ立ち直ってないもん」と一言。

中学3年の終わり――回想
雨の中、千恵が慎吾と話している。
「ふざけんな! 聞きたくないよ! アイツの伝言なんて!」
走り去る千恵。
新幹線に乗る少年。ドアが閉まる。
雨の中グラウンドにたたずむ千恵。みんなで練習していたときの写真を握りつぶす――

再び曲を聴いている千恵。
「いいんじゃない?」
千恵が言う。「ラスト、シックスはいったらどうかな?」とアドヴァイス。
他の曲もこのセンで、と加える。
「さっきのピンクのMD、彼女へのプレゼントかなぁ?」とちゃかす千恵。
慌てふためいた様子で否定する隆。
「オレは受験生だぞ。ったく……」

喫茶店から出てきたメンバー。外にいた人達がキャーキャー言いながら千恵を取り囲む。
早いけど、クリスマスプレゼント、と数々の人達からプレゼントを受け取る千恵。
「お先にー」と、メンバーが千恵に一言言い、去っていった。
「隆さん、またねー」と千恵が叫ぶ。が、隆は何も言わずに立ち去っていった――

帰り際に慎吾がつぶやく。豪華なタカラズカバンドだ、と。
どうやら千恵のバンドの通称らしい。千恵がラブソングを歌わないから、と言う。
「姉ちゃんが改心すれば、オレもプレゼントの1つや2つ……」
千恵は慎吾に顔を引き寄せ、「するか、バカ!」と一言、慎吾を置いてバイクで去っていってしまった。

風呂に入る千恵。やっと帰ってきた慎吾が何も言わずに風呂の戸を開け、文句を言う。
千恵は何も気にしていない。一通り文句を言い、千恵が軽く受け流すと、不承不承戸を閉めた。
そして、「オンナなら、ちょっとは恥ずかしがれよ」とつけ加えた――
ムッとする千恵。

風呂上がり、次のクリスマスライヴの曲の順番を決める。
ふと時計を見る。0時前。
思い立ったように、隆に電話をかける――出ない。
あきらめて電話を切ろうとすると、繋がった。慌てて電話を耳にあてる千恵。
明日の午後、ライヴの曲の雰囲気を決めるため突き合ってくれと誘うが、断られる。忙しいらしい。
それならと、千恵は、明後日の練習に早く来てくれ、という。それなら、と隆も了解した。
一通り会話が済み、千恵は電話を切った。
ベッドに仰向けに倒れかかり、千恵は憂鬱そうな表情を浮かべた――

再び回想
練習中。新曲の練習だ。「風のような君に」という曲。
「行くよ、1,2,3,4! ……あれ?」
振り向くと、ドラムがいない。
舞台を降り、少年が出口へと歩いていく。「待てよ!」追いかける千恵。
今まで一緒に練習してきたことが走馬灯のように思い出される。
「何で、何でだよぉ!」
出口のドアが閉まり、少年は出ていった――
勢い余り、ドアに激突し倒れる千恵。
新幹線に乗る少年。
「やだあぁぁ! 黙って行っちゃやだあぁぁぁ!!」

はっと目が覚める千恵。今のは夢だったようだ。
「分かってる、もう恋い何てしないもんね……」
涙を浮かべ、知恵は言った。

洗面所で顔を洗う千恵。さっぱりしたところで、
「よぉし! 天神で激辛カレーでも食ってシャキッとすっか!」
――しかし、いざ食べてみると。
「食べなきゃ良かった」と後悔する千恵……。

ふと、右を見ると、知らない女の人と話している隆の姿が。
呆然とする千恵。遠くからその光景を見つめている。
すると、隆はポケットから、あのピンクのMDを取り出し、その女性に渡した――
愕然とする千恵。
そして二人は去っていった――

−CM−

雨。いつもの練習場。言われたとおり早く来た隆は、一人で練習をしていた。曲を書いている。
千恵がバイクに乗ってやってきた。慌てて練習場へと向かう。
隆が「自分で言いだしといて何だ」と怒ったように言う。もうみんな来ちまうぞ、と加える。
「わりい」と誤る千恵。
「それよりさ」と千恵は切り出す。
「見たぞ見たぞ。昨日エルガーラで。綺麗な人じゃん」
「そんなんじゃねえよ」と隆。
「隠さなくてもいいじゃぁん」と笑って千恵がぺらぺらとしゃべるが、
ついに切れたのか、
「人のプライバシーに、土足で踏み込むんじゃねぇよ!」
隆が叫んだ。唖然とする千恵。
下にあった空き缶を蹴り飛ばし、隆は走り去っていった。
その時ちょうど、裕一が入ってきたところだった――

またあの喫茶店。
初めてだ、と言う千恵。誰にでも秘密の一つや二つはあるものだ、と裕一がかえす。
リーダーとして、みんな分かっているつもりだった、と千恵は言うが、そうではなかったのだ。
裕一が自分の好きな人が誰だか訊くが、千恵は答えられない。
なんと、裕一は慎吾が好きだ、という。初めて聞かされた事実に、千恵は唖然とした。
そして、二人で笑った――

慎吾の部屋。Hな本を読んでニヤける慎吾。
すると突然、千恵がドアを開け、入ってきた。慌ててH本を懐に隠す慎吾。
ノックぐらいしろ、というが、無駄のようだ。
「明日あたし、隆さんに誤るから。あんたたちにも迷惑かけて悪かったね」
自分たちは音楽で繋がっているから、他のことに立ち入っちゃ行けなかった、と慎吾に伝え、ドアを閉じた。

放課後、拓郎に呼び止められる。慎吾から聞いたんだけど、と拓郎。
大丈夫、分かってるから、と千恵は言い、走っていった。
千恵がいなくなったあと、「分かってるかなぁ……?」と、拓郎は首を傾げるのだった。

赤信号。制服のままバイクに乗った千恵に風が吹き付ける。
雪でも降るかな、と考えていた矢先。隆の姿が目に入った。しかもあの女性と一緒だ。唖然とする千恵。
二人はそのまま喫茶店へと入っていった。
青信号。後ろの車がクラクションを鳴らすが、千恵は呆然としたままだった――

喫茶店で会話をする隆と女性。あのMDについて話している。
サングラスをかけた千恵が喫茶店に入ってきた。二人の話しを盗み聞きしようというのだ。
サングラスに値札が付いたままなのに気付き、慌てて取り外す。
「……デビューしたらこのセンで行くつもり?」と、女性の言葉が不意に耳に入った。ハッとする千恵。
耳を澄ます。
どうやらメジャーデビューについての話しをしているようだ。しかもラブソング重視の。
硬派だからラブソング嫌ってるのかと思った。と女性が言う。
「……リーダーが書かないッスから」隆が言った。――愕然とする千恵。
ホントはみんなやりたいと思っている、と言う。千恵は先日までのメンバーの一言を思い出していた。
 ――姉ちゃんがラブソングやってくれれば――
 ――秘密ぐらい、あるに決まってるじゃない――
 ――それぞれ、考え方あるし――
「ラブソング……」
その後、一通り会話を交わし、二人は喫茶店を出ていった。あのMDを忘れて。
もちろん千恵はそれを見逃さなかった。

雪。
あのMDの曲を聴く千恵。――ラブソングだ。
「……言い曲じゃん……」
「言えよ……こういう曲やりたいって……」

再びあの練習場。千恵以外のメンバーが揃っている。
隆が、千恵が来たら話しがある、と言う。するとちょうどその時千恵が入ってきた。
「……ごめん。あたしバンド抜ける!」
言って、千恵は走り去っていった。

夜の雪の中をバイクが走る。千恵だ。
その後ろからバイクが追いかけてくる。隆だ。必死に千恵の名を叫んでいる。

完全に自分を失った知恵は、闇雲にバイクを走らせた。
――その時。
トラックが正面に迫っていた。我に返り、右に急激にカーブする千恵。しかし右には海があった。
千恵はトラックごと海に落ちていった。
後ろから追ってきていた隆は必死にトラックを避け急ブレーキをかける。
スリップして手を怪我したが、そんなことに構ってはいられない。
手を押さえながら、隆は海へ飛び込んでいった。

再び回想
「よりによって、何であたし達が文化祭実行委員なんか!」
「……バンドコンテスト?」
振り向く千恵。黒板にバンドコンテストの文字が。
「ふーん、そっかぁ。バンドかぁ……」
冗談のつもりだったのか、少年は黒板消しで消そうとするが、
「案外その企画、通るかもよ」
知恵は言った。

「あの時、あんたは私に、何を伝えようとしたの……?」

ベッドに眠る千恵。病院の中。
目を覚ます。横には裕一と拓郎がいた。
「全く、あんな無茶して」と裕一。
「だって……、ホントはラブソングとかやりたいのに、あたしが突っ張るから」
みんな、仕方なく付いて来たんだろ、と言う千恵に、裕一は平手打ちを一発いれ、去っていった。
呆然とする千恵。
拓郎が、隆は千恵のことが好きだった、といった。初めて聞かされる事実に、驚く千恵。
千恵のことが好きだったから、言えなかったんだ、と拓郎は言った。
「千恵のこと海から助けたんだぞ、指の骨折っちゃったけど」
「指……?」
千恵はパジャマのまま飛び出した。もし本当なら大変なことだ。
拓郎の、違うんだって、という言葉は耳に入らなかった。
急いでタクシーを呼び、天神の親不孝通りまで行かせた。

あの喫茶店の外にたたずむ隆。後ろの人に気付き、振り返る。千恵だった。
「ごめん」と誤る千恵。「隆さんの夢まで壊しちゃって」
指を折ってしまったのだ。ギターには大きな支障が出るはずだ。
「ああ、大丈夫だ。右手の小指だからさ」
「……ホントに?」「ああ」
千恵はゆっくりと隆の方へ歩み寄り、泣き崩れた――

クリスマスライヴ当日。
隆がプロの仲間入りをすることを告げる千恵。
そのとき、慎吾が手元の楽譜を見て驚く。「風にのせたラヴソングって……この歌詞は、あの文化祭の時の!」
「今日の最初のナンバーは、うち初めてのラブソングだ!」
その言葉に観客だけでなく、メンバー全員が驚く。
「この曲で、隆さんはプロになれたから、詞はあたしからのプレゼントってことで。ぶっつけでも大丈夫だよな!」
「当ったり前だろ、誰が作ったと思ってんだ!」と隆。

「……ねえちゃん」
「あの時、アイツが伝えそこなった言葉。聴こえたみたいだな……」
慎吾が小さくつぶやき、笑った。

「オーライ? じゃ行くぜ! 1! 2! 1,2,3,4!」
ライヴハウス中に、千恵の歌声が響きわたった――

−EDテーマ−

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