第十二話(7月1日放送)

沢渡ほのか
~ほのかな恋の物語~

Akira / Chie / Yuu / Manami / Kaho / Wakana
Rurika / Asuka / Miyuki / Emiru / Taeko / Honoka

主要スタッフ
脚本
絵コンテ
演出
作画監督
荒川稔久
飯田幸子
岡本英樹
しんぼくたろう
山本浩

ストーリー

札幌。雪が冷たい冬。

大きな樹の下にポツンと置かれている郵便ポスト。

第十二話 沢渡ほのか ~ほのかな恋の物語~

そこへ、一人のポストマンが歩いてくる。
しかし、ある人物を見つけて足をとめる。
――ほのか。
郵便ポストの前で立ち止まり、一通の手紙を出すかどうかで迷っていた。
長い沈黙のあと、ほのかは勇気を出してその手紙を投函し、立ち去った。
そして、ポストマンは笑った。

ある日の朝の学校。
「ほのかぁ~」
校門で友人に呼ばれ、振り返る。
「帰りにちょっとどこか寄って行かない? こいつの初デートの取り調べすんの」
「な、なによぉ、それぇ?」
「朝までずうっと一緒だったんでしょ?」
「え? ……それって……」
ほのかは頬を朱く染める。
「いくトコまでいっちゃったってコト」
「言うなコラ」
「ほのかも聞いとかないと、そっち方面のこと」
「い、いいよ……。それに、どっちみち今日はデートなんだ」
「え? またぁ?」
「父親と食事するのはデートって言わないの」
「いいもん、言わなくったって。じゃあねっ」
ほのかは校内へ走っていった。
友人たちはそこでため息を付くのだった。

放課後。
北大に走るほのか。もちろん、父親に会いに行くためだ。
「考古学研究室」に入る。
「あれ……?」
父の姿はない。
すると中にいた女性が、
「先生、会議が長引いちゃってるみたい」
と言い、ほのかにコーヒーを入れる。
「またデート?」
「あ、はい……」
「いいなぁ。うちの父親なんて、私の誕生日すら忘れてるのに」
「ままがあちこち飛び回ってるから、あたしくらいしかいないんですよ」
「ふぅ~ん。あ~あ、私もデートしたいなぁ……」
そういってコーヒーを飲む。
するとかけていたメガネが曇り、女性はそれをはずす。
「あ……」
メガネを取った顔があまりにもキレイだったので、ほのかはつい声を上げてしまった。
「どしたの?」
「あ、う、ううん……」
「ごめんね、最後までつきあってあげられなくて。デート、がんばってね」
そう言ってその女性は部屋を出ていった。
「デートかぁ……」

大きな時計台の前の大きな樹。
その樹の上には、あのポストマンが紙飛行機を手にして座っていた。

夜。
机でなにやら書き物をするほのか。
すると、ノックもせずに誰かが入ってくる。こっそりと、ほのかに聞こえないように。
ちょうどほのかはそのときそれを書きおえ、封筒に詰めているところだった。
そして、封筒の表に「あなたへ」の文字を書き、ため息を付いた。
その時。
「わっ!」
「キャッ!」
あまりの驚きにほのかは机に突っ伏す。
脅かしたのは父だった。
「何してたんだ? 背中が真剣だったぞ」
「そ、そう……?」
と言ってほのかはカバンにその手紙を隠す。
しかし父はめざとくそれを見つけ、追求する。
「ラブレターか?」
「そ、そんなんじゃ……」
「隠すな隠すなぁ」
「大丈夫だよ。ラブレターなら、パパ宛だから」
「おお、そ、そうかぁ。いいヤツじゃ」
そして父はほのかを抱きしめる。
「今夜はなに食べる?」
「お寿司」
父は思案顔だったが、にっこり微笑んだ。

「ありがとうございましたぁ~」
寿司屋から出る二人。
父は飲みすぎたのか、酔っぱらっている。
「もう、調子に乗って飲むからぁ」
「大丈夫だよ……。パパはほのかがいなくなっても、ちゃんとやっていける……」
父はよろめく。
「しっかりしてよ、ほら」
しかし急にしらふになる。
「しっかりしてるさ」
「…え?」
「寂しいような、ほっとしたようなだ」
「なにが?」
「ほのかが恋をしたことがさ。どんどん恋をしなさい、とまでは言わないけど。わがままな話だが、いつもパパとつきあってくれるのも、それはそれで心配でね……」
ほのかはうつむく。
「私……先に帰る!」
「ほ、ほのか!」
ほのかは走って帰っていった……。
父はそこにたたずみ、ため息を付いた……。

帰宅後。
急に電話が鳴り、ほのかは受話器を取る。
「あ、こちらテレビ北海道の、想い出探偵団という番組なんですが……ほのかさんは?」
「私ですけど……」
「あ、ご本人ですか! おめでとうございます!」
「えぇ?」
「小学校の時、卒業を目前にして、転校してしまった彼に、もう一度逢いたいというご依頼が、採用されましてですね……」
「えぇ?」

宙を飛ぶ紙飛行機。
ポストマンはその自分の投げた紙飛行機をずっと見つめていた――


次の日。
「えぇ~? どうして断っちゃったのぉ? せっかく書いてあげたのにぃ」
どうやら昨日の訳の分からない電話は、友人たちのせいらしかった。
「ひどいよ……勝手に人の名前で……」
「だって、逢いたいんでしょ?」
「逢いたいけど……逢いたくない」
「何よそれぇ?」
「だって、もう17歳だもん……」
「え?」
「だから……逢いたくないの」
友人たちはため息を付いた……。

放課後。夕方。
ほのかはまたあの郵便ポストに立つ。
そしてポストマンは立ち止まる。
ほのかはそれを見て、いそいそと手紙を出し、立ち去っていった……。

卒業アルバム。小学校の時のものだ。
少年は卒業式こそ北海道でしなかったものの、卒業アルバムの写真は撮っていた。
ほのかはそれを見つめる。
「このときは、私より背が小さかったのに、きっと、おおきくなって、声も変わっちゃったよね……」

自転車でひた走るポストマン。
そして急に自転車を止め、虚空を見つめた……。


次の日の学校で。
ほのかは自分の席でまた手紙を書いていた。
(私……やっぱり、男の人が怖いの……。どうしたら、いいのかな……。なんだか、不潔な気がして……)
すると。
「おお~! 巨乳じゃ~ん!」
数人の男子たちが、雑誌のグラビア記事を見て騒いでいる。
とたんに機嫌が悪くなり、ほのかは席を立つ。
ドアでいつもの友人についぶつかってしまったが、誤りもせずほのかは教室を出ていった。
「ほのか……?」
その時友人は、ぶつかったときに落としたのだろう、ほのかがさっきまで書いていた手紙を見つけた。

屋上。
ため息を付き、ほのかは佇んでいた。
そこへ、あの手紙を拾った友人が現れた。
「拾って、机に入れといたよ……。ラブレター」
「!! 読んだの……?」
「ゴメン……目に入っちゃって。どうせだから、言っていい?」
「え……?」
「あんなラブレター、おかしいよ。なんか、父親と交換日記してるみたい」
「!!」
ほのかの顔が驚愕に染まる。
「変だよ……。好きな子に書いてるのに」
「沙樹ちゃんは怖くないの……? 男の人……」
「別に。そういう生き物だと思ってるから。結局は人間の雄じゃん」
「ずっと男の子のままでいてほしいの!」
「そんなこと言ってるから、いつまでもファザコンやめられないんだよ!」
「……いいの! ずっとこのままでも……」
「あんたの父親だって男なんだよ! じゃなきゃあんたは生まれないでしょうが!」

――乾いた音が響きわたり、樹の雪が音を立てて落ちた。

沙樹の左頬が真っ赤に染まっている。
そして、ほのかは右手を振りおえた状態で動かず、涙を流していた。

放課後。北大。
憂鬱な表情のほのか。
しかし、父の研究所の前まで来ると、思いっきり作り笑いをし、中へとはいる。
「パ……」
ほのかは何かうしろめたかったのか、言葉を途中で切った。
そこには、いつものようにあの女性と父が仕事をしていた。
「あら」
「ほのか」
「あ、何となく……。学会近いんだもんね。ちょっとのぞきに来ただけ。じゃあね」
そういって出ていこうとしたが、思い出したように、
「あ、この前の夜、ゴメンね……」
と言って部屋から出ていった。
二人は顔を見合わせた。

またあの郵便ポストでたたずみ、手紙を出し渋るほのか。
そして、ポストマンも同じくしてほのかが手紙を出すのを待っていた。
「……出しますか?」
ほのかは急に沈鬱な表情になり、手紙を出さず、走り去っていった……。

-CM-
つづく

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